第1章 始業式
「考えなくて良いなら、私はどうしたらいい?いつも通りにしてればいいよね」
留三郎はしばらく何も答えない。
ようやく出した答えは考えなくて良い、という彼自身の言葉と矛盾していた。
「もうちょっと融通きかねえの?・・・・・・少しは俺のことを好きになれよ」
「考えなくて良いって言ったのに」
すると彼はまたため息をつく。
幸せが逃げるよ、だから巻き込まれ不運なんだね。
「他に、好きな奴いんの?文次郎の野郎だったら今すぐはっ倒しに行く」
「違うよ、だいたいあんたたちが恋愛対象に入る訳ないじゃないか」
「なんでだよ」
「今更急に恋人だなんて言われても、大して今と変わらない生活を送ると思う」
それくらい、私にとって彼は仲間として大切だったし、今の関係が一番心地よかった。
「それに、変に本当に好きになったら仕事できないでしょ。留三郎だって学園を卒業したら別れるつもりで最後の一年って言ったんだろうし」
彼はぽかんとしている。
「私は、そんな割り切りのできる人間じゃない。それにあんたたちが大切で、大好きだからこそ別れる前提で恋人になるなんてできないよ」
精悍な顔が台無しの間抜け面をした留三郎は、しばらくしてようやく返事をした。
「別れる気なんて更々ねえんだが。卒業したらそのまま嫁にもらってくか、それが許されなかったらさらってやるつもりだぜ、俺は」
「・・・・・・え、別れる気ないの?妻帯して忍者やるの大変だよ」
「万難を排してお前と一緒にこの世を生き抜いてやる。この乱世をな」
今度は彼の言葉に私が唖然とする番だった。
「・・・・・・自分で言うのも変だけどさ。留三郎、いったいどれだけ私のこと大好きなの」
「添い遂げる覚悟はとっくにできてる」
再び身を乗り出してきた留三郎を押し戻しながら、私はもう一度考えた。
彼だって色仕掛け対策のために女を抱いたことはあるはずだ。
だから他の女を知らないわけではない。
その上で、女としての魅力を一切持たない私を好きだと言っている。