第1章 始業式
「四年生の時。・・・・・・迫ってこないでよ」
「・・・・・・触っていいか。いや、食っていいか」
「いいわけないでしょう」
「勝負だ」
「どういうことよ」
あと少しで唇が触れるか触れないか、そのぎりぎりまで近づいてきて、でも触れない。
壁際に追いやられているだけでも相当危険だ。しかも留三郎は息を荒げて触れるのを我慢して、興奮を抑えようとしている。
襲われそうなのに逃げられない。
熱い吐息が耳や頬にかかるたびに腹の辺りががむずがゆくなる。内股に力を入れて流され
そうになるのをこらえた。
「ね、え。息がくすぐったいから離れて」
「触れそうで触れられないってそそられるだろ」
「勝負ってそういうこと?・・・・・・何する気よ」
「聞くな、察しろ!そして早く返事してくれよ」
私の体にしか興味がないのなら断る理由は特にないし、彼のことは好きだ。
もちろん恋愛対象ではないが。
相手が半端な思いならばこっちだって半端な思いで付き合ってやろうとは思うが、彼がどれくらい真剣なのか、今のところ、情けないことにわからない。
「・・・・・・ちょっと考えさせて」
彼は盛大にため息をついて離れていった。
「お前さ。・・・・・・俺に興味ねえだろ」
珍しく鋭い洞察力を見せる留三郎にいささか驚いた。
「そりゃあ、まあ。だってずっと伊作の不運仲間くらいにしか思ってなかったし」
彼は「酷い言われようだな」と苦笑する。
「ハッ、報われねーな俺」
「考えるよ、とにかく」
「やめろ。考えてもやっぱり好きになれないなんて言われたくない」
留三郎は私の正面にあぐらをかいて座った。
私も姿勢を正して正座をする。
「堅苦しいな」
「あぐらしろって?」
「あぐらか正座以外の選択肢があるだろうが」
「ああ、横座りね。そうさせてもらおうかな」
それで、と私は言葉を続けた。