第1章 始業式
「・・・・・・」
「留三郎」
図書室にでも行こうと廊下を歩いていたら背後から留三郎が多い被さるように抱きしめてきた。
私の首筋に顔を埋めてすんすん臭いをかいでいる。
「・・・・・・この臭いは伊作か」
「犬みたいなことをしないでよ」
振り向くと顔をほんのり赤く火照らせた留三郎と目が合った。
「あんた、熱あるんじゃない?いつもの勝負だーはどこに行ったの」
「・・・・・・それどころじゃねえ」
私はまだ彼に何の返事もしていない。
私は彼のことが好きなんだろうか?なんと返事をすればいいのだろう。
「留三郎、私のどこが好きなの?いつから?」
「全部。いつからかなんて記憶にねえよ」
「胡散臭いなあ」
ムッとしたようで、私の腕を強引につかんで再び抱き寄せた。
「胡散臭くねえ。今だって」
腕をつかんだまま彼は自分の胸に私の手を当てる。彼の心臓はどくんどくんと力強く、駆け足で脈打っていた。じんわりと頬が火照ってくる。
「おまえに少し触れるだけでも俺の理性は吹き飛びそうになっちまう」
「分かったよ、もう恥ずかしいから離して」
「だめだ」
「胡散臭いって言ったのは謝るから」
「謝んなくて良いから俺におまえの全部をよこせ」
これを白昼堂々と廊下でやっているんだから恥ずかしい。せめて部屋で話し合いたい。
「あの、せめてさあ、部屋で喋ろうよ、続きは」
今度は腕をひかれて六年は組の忍たま長屋へ。同室の伊作が薬草を煎じることもしばしばあるこの部屋は保健室と同じ香りがして少し落ち着く。
「・・・・・・」
「ん?」
「色の授業の実習はまだか?」
「なっ、何てことを聞くの。もうあったけど」
「いつだよ」
気のせいだろうか、留三郎が徐々に間合いを詰めて身を乗り出してくる。