第1章 始業式
「・・・・・・伊作。おまえが好きだ。ずっと好きだった。最後の一年を、俺にくれないか」
そういって伊作を優しく抱きしめる。伊作がぎょっとした目をして私を凝視した。
「ねえ、何で本来君の名前が入るはずのところに僕の名前を入れたのさ。そこまで熱演しなくて良いから」
ぐぐぐと肩をつかんで引き剥がされる。
「良いじゃない、別に。今更お互いどうってことはないでしょう。ちょっと思い出したら面白くて、熱演したくなったの」
剥がされるまでもなく私はさっと伊作から離れて、分類し終わった薬草を薬棚に戻すことに集中した。
「たぶん、三年生の頃くらいからだと思うんだけど。僕が留三郎からそれについての相談を受けたのは三年生の時だったから」
案外あっさり教えてくれたことにも驚いたが、何より留三郎がそんなに昔から思いを寄せてくれていたことに驚いた。
あとはただ黙々と薬草を分類したりひいて粉にしたり、作業に徹した。
二人で作業をしたからか、案外手早く片づいてしまった。一通りの整理は終わったから、お疲れ、ありがとうと言って保健室を出ようとする。
「・・・・・・たの」
障子を後ろ手に閉めようとしたとき、かすかに伊作の声が聞こえた。
「ん、何か言った?」
「ははっ、いや、何も言ってないよ。まあお幸せにね」
伊作は苦笑して私を無理矢理廊下に押し出し、少々強引に障子を閉めた。
彼はこのあともまだ包帯の在庫を調べ、包帯巻き機の点検をし、忙しく委員長業務に励むのだろう。
私と同じように六年間保健委員会に所属することになった彼は、私とは違って包帯裁きも、「保健委員だから」と言う忍者にあるまじき心優しさも、すっかり板に付いていた。
彼の薬草や毒草、医学の知識は悔しいが本当に頼りになる。
私ももちろん薬について多少は知っているし、一応伊作と遜色はないくらい包帯巻きの技量はあるはずなのだが、彼の根底にあるお節介と言っても過言ではないほどの優しさが私にはない。
私は相手が敵だったら助けないだろう。それとも実際にそのような状況になったら六年間も過ごしてしまった保健委員会の習性が出て、結局助けてしまうのだろうか。