第1章 始業式
「・・・・・・私のこといつから好きだったんだろうね、あいつ。さっき告白されるまで全く気づいていなかったよ」
伊作の反応を見れば、留三郎の恋模様を少しは知っているだろうことは推測できた。
戦う用具委員会委員長、勝負事を好み、好戦的な性格。
そんな私のよく知る血の気の多い男前な留三郎が一体どんな恋煩いに悩まされてきたのか大いに気になる。
下を向いて黙々と作業をする伊作をじっと見つめた。
視線に気づいたようで、ふと顔を上げる。
目があったのもつかの間、何事もなかったかのように作業に戻ってしまった。
開け放していた障子から桜の花びらが舞い込み、私たちの髪はふわりと風に揺られる。
「あ、薬草に花びらが混じらないように片づけなきゃ」
「伊作、あからさまに話をそらさないで」
風が入らないよう障子を閉めて、落ちている花びらを集めた。
「・・・・・・君って、妙なところ冷めているくせに鈍いよね。いや、冷めているから鈍いのかな。なんでもいいけど、自分で考えなよ。今後のためにも」
私に対するちょっとした、本当に些細な意地悪い一言は、伊作の私にしか見せない一面である。
それは私のことを女性として意識しているがゆえの照れ隠しなのか、と尋ねたところ、脳天気な人だねとさらに嫌味を言われたことがあった。
その嫌味も含めて照れ隠しなんだろうと思っていたが、どうも本当に私の勘違いらしく、最近伊作は一つ下の別のくノたまとうまくいっているときいている。
「なんか手がかりとかないの?」
彼は薬草を束ねる手を止めてはあ、と溜息をついた。
「面倒な人だなあ。が留三郎のクサい愛の告白のせりふをこの場で再現してくれたら話してあげる」
私はしばらく考え、好奇心が勝り、仕方なく演じることにした。