第1章 始業式
美味いとも不味いとも言わずに黙々と食べる文次郎をしばらく眺めた。
目の下のクマさえなけりゃ、割と男前な顔なのにもったいない。
「・・・・・・人の顔をじろじろ見るな」
「ごめんって」
今度こそ帳簿とにらめっこする。
破滅的な字が並んでいる場所もあり、委員長の苦労を痛感した。
「これ何て書いてあんの?」
「ああ、一年は組の加藤団蔵の字だな。俺も分からん」
今日入ってきた新入生にいきなり仕事をさせたのか。
容赦ないが、忙しいし人手不足だから仕方ない。
私たち保健委員も新しく二人、猪名寺乱太郎くんと鶴町伏木蔵くんが入ってくるなり歓迎の言葉もそこそこに保健室の説明や保健委員としての心構えなどをたたき込んだ。
彼らを一年の長屋まで送ったあと、自室に戻ろうとしたところで留三郎に捕まって告白された。
そして今、会計委員の部屋で帳簿とにらめっこしている。
盛りだくさんの一日で、同じ今日の出来事とは思えなかった。
「うーん、これ一桁違うんじゃないの?」
薄暗い灯台のもとで汚い字を判別するのは肩が凝る。
仕方ないからもう一本燭台に火を灯した。
「・・・・・・嘘だと言ってくれよ頼むから」
「嘘じゃないね、これ」
明るくなった部屋とは逆に、私たちは意気消沈した。
「全部やり直しか」
「いや、この子の担当した委員会の分だけですみそう。幸い学園全体の方は三木ヱ門が正確に記入しているから」
「いや、だとしたらそれもやり直しだ。委員会の予算で間違いがでているんだから、最終結果の予算もずれる」