第1章 始業式
日が沈んでからの体感時間を考えれば、もう夜もだいぶ更けている。
「四人分だって忘れて二人分で作り始めてな。途中で足したから時間がかかった」
確かにやけに時間がかかっていた。
「そりゃ仕方ないね。今度は六年皆で食べよう。私が作るからさ」
「懐かしいね。良いよ」
「良いだろう」
「俺も賛成」
「それじゃ決定。ごちそうさま、留三郎。おかわりは部屋で食べるよ」
「おう、また明日」
「お休み」
「よく寝ろよ」
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三人にお礼を言って会計委員会の部屋に向かう。
予想通り障子からは光が漏れていた。
三日目の徹夜なら、もう委員長である彼一人しか残っていないだろう。下級生はだいたい二日目までには脱落する。
パチパチと十キロそろばんを弾く音が響いてきた。
「失礼、保健委員です。文次郎大丈夫?」
しばらくそろばんの音がやむ。
「・・・・・・この声はか。大丈夫だ、明日の放課後には終わる。お前は俺の心配は良いから寝ろ」
そう言うとパチパチという音が再開した。
「お邪魔しまーす」
「はあ?!」
突然の入室に混乱した様子の文次郎。
目の下のクマはいつもの三倍くらい濃くなっていた。
片手には十キロそろばん、片手に忍者食。
予想通りの光景だった。
「ほらほら、そんな不健康なものはやめてこっちにしな」
そう言ってお盆に乗せた料理を運び込む。
長机の上にはもう場所がなかったから、立てかけてあったもう一つの長机を正面においた。
暖かい湯気に乗って漂う良い香りが空腹を刺激したのだろう。
彼の腹の虫は盛大な音を立てて鳴った。
「チッ、聞かなかったことにしやがれ。ありがたくいただくが、これは誰が作ったんだ」
留三郎、なんて言ったらブチギレるのは目に見えている。
「私」
「そうか、すまんな。・・・・・・お前は早く寝ろ」