第1章 始業式
「この期に及んで恋だの愛だの言っている留三郎よりはましだがな」
「げ、何で知ってんの」
「知らないのはお前と文次郎と小平太ぐらいだ。・・・・・・そんなんでくノ一できるのか?もっと色恋沙汰に敏感になれ」
いつも通りのお説教を軽くいなして話題を変えようとする。
もう外はすっかり暗くなって、いくら夜目が効くとはいっても不便だから勝手に燭台に火を灯した。
「文次郎は徹夜何日目?」
「まだ三日目だ」
「まだ、じゃないよ。ご飯は食べているの」
「さあな、ほぼ部屋に戻ってこないから分からん。朝と昼は一緒に食べているからまあ大丈夫だろう」
絶対に食べていないか、せいぜい忍者食でしのいでいるんだろう。
心配せずとも忍者食なんてこの後いくらでも、それこそもう嫌というほど食べられるのだから、食べられるうちに温かいご飯を食べればいいのに。
新学期は予算の調整で忙しいのは分かっているし、どの委員会も人数不足に悩んでいる。
私は後で自分の分を一部、彼に持って行ってやることにした。
ついでに手伝ってやろう。
彼には春休み中、何度か槍術の稽古を付けてもらっていた恩がある。
結局私にも保健委員会のさがである、お節介が染みついていた。
「ほら、できたぞ。食堂に取りに来い」
しばらく他愛もない話をしていると、留三郎が戻ってくる。
「お、ありがとう」
「いつかの飯も食わせろ」
「つつしめ、留三郎」
「あ?別に良いだろ」
低学年のうちは皆の手料理も好きなだけ食べていたが、学年が上がるにつれてそんな機会も減っていった。
久しぶりの他人の料理に暖かい気持ちになる。
「うん、美味い。お嫁さんになれるよ留三郎」
「が俺の嫁になるんだろ」
彼が伊作のからかいに真面目な顔でそんな返答をするものだから、味噌汁が喉に詰まりそうになった。
「勝手に話を進めないでよ」
仙蔵も「留三郎にしてはなかなか美味いじゃないか」と彼なりの精一杯の誉め言葉で誉めている。
結局文次郎の分をとっておくのを忘れて食べきってしまったから、おかわりをもらうふりして別の器に料理をよそった。