第1章 始業式
「これもここだけの話だが、あいつ、お前のことが今でも大好きだからな」
「へえ、両思いだったんだね」
私は別に驚くこともなく淡々と返した。
「そうじゃなけりゃあんなに積極的に話しかけたりしないもんね」
「だから、本当に君はそう言うところ冷めてるよね」
「そこは普通喜ぶか照れるところだろ」
何を今更。
もう私は彼に好意を抱いていないのだから、喜んでも照れたりはしない。
「そんなウブな私はもういないよ」
「知ってるよ」
突然床下をネズミが走る。
その気配に気を取られ、三人とも瞬時に気を引き締めた。
遅れて障子が開き、仙蔵が入ってくる。
「何だ、仙蔵か。人の部屋に入るのにいちいち小細工しないでよ」
私は涼しい顔をして上がり込む彼に文句を言った。
「その油断と隙がお前らの欠点だ。私が敵だったら今頃死んでいるぞ」
仙蔵の冷静な指摘にぐうの音もでない。
「学園内でまで緊張し続けたら狂っちまうだろうが」
「そんな貧弱な忍耐力では忍びのたまごすら名乗れないだろう」
私たちはもう六年生なんだから少しは気合いを入れろ、と喝を入れられる。
「そんなお説教をしにきたの?仙蔵ったら意地悪いなあ」
「黙れ、」
実のところ、私たち三人は突然彼が訪ねてきた理由が全く分からなかった。
普段は薬草臭いとか、忍者は臭いすら消さなければいけないのに何やってるんだとか、お小言を言うだけで寄りつかないのに。
だいぶ日も傾いてきて、放課後の忍たま長屋に夕日が射し込む。
夕飯は自炊だから、そろそろくノ一教室に帰って食事を作らないといけない。
一人しか残らなかったこの学年のくノたま。
必然的に私は三人部屋を一人で使うという贅沢な部屋割りになったが、一人で広い部屋にいても寂しいだけだった。
それも私が一人になった三年生の後半からだいぶたった今、もはや気にならなくなったのだが。