第5章 𝕆𝕕𝕠𝕟𝕥𝕠𝕘𝕝𝕠𝕤𝕤𝕦𝕞
けどカギがないから開けられない
勝己くんは目を鋭くさせ、黙って私の視線を見つめ返す。あぐらをかいて座り込んでいた腰を上げて、私の正面まで来るなり顔だけを寄せてくる
「じゃあ、もし轟がお前のことを好きっつったら何て答えんだよ」
それは余りにも胸に雲隠れしている気持ちに核心を迫る質問だったと思う。でも上手く言葉に出来なくて、しようとすると息苦しさに襲われそうになる
『……わかんない』
それだけ答えると、勝己くんはつまんなそうに「そーかよ」と言った
『あ…でもね!考え込んでたのは確かに轟くんの事だけど勝己くんの事も考えてたの!』
「は?」
『実は今日の朝ね……』
私は今朝、緑谷くんとの会話を勝己くんに話す
緑谷くんが思い出してくれたこと
勝己くんが私がいなくなったあとも気にかけてくれていたこと
緑谷くんの名前を口にした時点で勝己くんのこめかみがピクッと動き、話し終わる頃には不気味な笑顔を浮かべていた
「あのクソナードがッ…今すぐブッ殺す…」
『ってそうじゃなくて!!
勝己くん…ずっと心配してくれてたんでしょ?』
「…ウソに決まってンだろ、当てにすんなや」
『そんなこと言って覚えてくれてたじゃん
わたしに出来ることあったら言って!
昔は助けて貰ってたけどいまはそう簡単にはいかないから』
そうしなきゃ、私だって気が済まない
ずっとこうして思いだす度にモヤモヤしてしまうだろう
「何してくれるンだよ」
『それは…分からないけど…
私に出来ることならなんでもするよ?
助けてって言ったらすぐに駆けつける!』
「死んでもねぇわ」
以前よりは幾分彼の態度は丸くなった気がする
けれど、やっぱり距離を感じることが多々ある
顔を逸らす勝己くんに対し、怯まず強い眼差しをぶつける
「ンじゃあ轟と何があったのか教えろ
それと次また詫びるなんて言い出したらブチ犯す」
『なんで?…それじゃあ少し弱い気がする』
「それ以外はねぇ。大体オレがいつてめぇに詫びろなんて言ったんだァ?余計な気ぃ回されるほうが癇に障んだよ」
気を回す…
私は勝己くんとの間に僅かな距離があると感じてた
そっか、私が自分で作っていたんだ
せめて…勝己君の前ではあの頃の自分でいたい
『うん…わかった
勝己くんに話聞いてもらおうかな』