第5章 𝕆𝕕𝕠𝕟𝕥𝕠𝕘𝕝𝕠𝕤𝕤𝕦𝕞
その日の授業は全く身が入らなくて
結局気付けば放課後になっていた
……もう、いやぁ
私は考えることを放棄するように机に突っ伏して瞼を閉じる
このまま、寝て
次に目を覚ましたら過去に戻ってるなんてことはないだろうか
轟くんに会う前…いや、勝己くんに会う前かな?
それとも
こんな風に悩むことなんてあり得なかった
啓悟くんと無邪気に笑いあえてた日々かな________
○o。.
"彼"は寝ている私の前まで来てその場で立ち止まった
暫くの間その情熱の籠もった瞳で私を見下ろしている
私は目を瞑っているはずなのに"彼"が私を見ていることが分かる
"彼"は左手をそっと私に伸ばして
包み込むように私の頭を一撫でしたあと
もう一度その動作を繰り返す
私は擽ったくて払いのけるように顔を彼の方へ向ける
すると今度は"彼"の右手が私の頬と机の隙間に入り込み、添えるように持ち上げられる
唇が重なる
それは触れるだけのキスで
離れていく"彼"を引き止めたい衝動に駆られる
とても柔らかくて、物足りない…
けれど私は寝ているから喋ることが出来ない
"彼"は屈めていた体を起こし、その薄い唇を開く
「____________………」
『…んん…』
しっかり機能しない頭を上げて辺りを見回す
当然だけれど、そこは教室でどうやら本当に寝てしまったらしい…
過去には戻れなかったけども
そしてふと思った
あの…人だれだろう
夢なのに、夢じゃない
無意識に指で唇を抑える
…だって唇温かい、感触残ってる
でも思い当たる節がなくて
これ以上考え事が増えると頭がパンクしそうだったから無理矢理にでも夢ということにした
時計を確認するとHRが終わってまだ30分ほどしか経っていない
教室に誰もいないということは皆帰ってしまったのだろう
……起こしてくれてもいいのに
そう思って轟くんを思い浮かべたけれど
今朝のこともあって複雑な気持ちになる
『…帰らないと』
私はイスから腰を上げて、スクールバッグを片手に教室を後にする