第9章 𝕎𝕒𝕥𝕖𝕣 ℍ𝕪𝕒𝕔𝕚𝕟𝕥𝕙
『…なんでこんなところに』
「…こっちのセリフだよ、轟くんこそどうして?」
伺うように上目でこちらを覗く 秋月 の頭を一撫でしたあとその口元に唇を落とす。引こうとする顎を抑えて唇が離れないように吸い付く。
「ふっ…んんっ…ん…!」
気づけば無我夢中でがっついてて、彼女は胸元で手をバタバタさせて訴えている。ゆっくり顔を上げると真っ赤に熟れた顔がそこにはあって、困ったように眉を垂れ下げている。
『…今日お母さんに会った』
何も言わないが 秋月 の顔色がサッと変わって無言で頷いてくれる。荒れていた波が徐々に静まっていくようだった。
オレは今日のことを思い浮かんだ分だけ彼女に話した。頷きながらも表情を豊かに変化させて、たまに相槌を打ってくれる。
『 秋月 に…一番に今日のこと話したかった』
心からそう思ってた。そんでずっと言えなかった一言を______
『それともう一つ言いてぇ事がある』
何かを察したのか 秋月 が息を呑んだのがわかった。その表情からは何を考えてんのか読み取れない。けど今にでも伝えたかった。
『オレは…』
「聞けない…」
秋月 はオレから距離を取るように胸に手を当てて顔を下に向ける。
「…ごめんね、ごめん…でも聞けなくて…聞いたら」
様子がおかしい…ずるずる下に下がっていく両手首を捕まえて顔を上げさせる。頬が上がり眉間や目頭の付近に皺が出来ている。
あぁ、やっぱり泣きそうな顔してる
『いきなり聞けねぇだけじゃ納得できねぇ
訳を聞かせてくれ』
「それも言えないっ…轟くんを傷つけたくない」
頑なに言うまいとする態度に心の中を掻きむしられるような激しい焦燥に襲われる。つい手首を掴む手が強くなり声が荒げてしまう。
『何も言ってくれねぇほうが傷付くだろッ』
「ッ!」
その瞳から耐えきれず涙を溢れていくのをじっと見つめる。嫌な予感がした。その口が何か言い出すのが怖い気もした。
けどそれ以上に好きだから
今度はオレが受け止める番だから
「私…誰を好きなのか分からないの…っ」