第9章 𝕎𝕒𝕥𝕖𝕣 ℍ𝕪𝕒𝕔𝕚𝕟𝕥𝕙
《轟side》
「…雨、降るな」
鉛を張ったような曇り空にそう思った。結構長引いちまったな…病院から出たときには午後三時を下回っていて予定より一時間遅くなった。
変な感じだった。
今まで縛り付けてたもん全てから解放されたわけでも親父への蟠りが消えたわけじゃねぇのに…
オレ自身落ち着いてた。
ただ純粋にオレの目指すヒーローになっていいんだと、もう囚われなくて良いんだと思った。
お母さんに 秋月 の話を少しだけした。驚いた様子を見せながら今度連れてきてほしいと言われた。
分かんなかった。傷つけるのが怖くて、悲しませたくなくて…
愛情を向けた人がまたオレのせいでいなくなっちまうのが怖かった。
けど 秋月 はオレに向き合って話を聞いてくれた。光になってくれると。
彼女の話をお母さんにしてるとき、あぁそうかと思った。
オレは 秋月 が好きだ。
すんなりそう言葉が出てきた。怖いと思う気持ちを凌駕しちまうほど好きで愛おしかった。
前まで不安で押しつぶされそうなときほど彼女に会いたかった。今は…
「え〜!それほんと!」「ほんとだって!ほんとにいたの!」「あのホークスが?!」「あ、でも…」
さっきから周りがやけに騒がしくて辺りを見回すと、目の前のショッピングモールに人が集まってくる。
なんだ?有名人でもいんのか?
流石に中に入る気にはなれずそのまま通り過ぎようとしたときだった。中から出てきた人物に思わず目を見張る。
制服と体操服以外で見かけたことがなかったから一瞬分からなかった。着飾られた服が 秋月 によく似合ってて、彼女を知らない人からみればどっかから来た姫様みたいに見える。
空を見上げた儚げな表情が余りにも美しくて見惚れていた。
『…… 秋月 ?』
声に反応してその姿を捉えようと顔を向ける。
「とどろき…くん?」
泣きそうに見えた
空が降らすより先にその頰を濡らしそうで
無意識に腕が動いて、息が詰まるほど彼女の体を引き寄せた。