第9章 𝕎𝕒𝕥𝕖𝕣 ℍ𝕪𝕒𝕔𝕚𝕟𝕥𝕙
「…え、ちょっ」
[ 3・2・1〜♡ パシャッ
撮影がおわったよ!隣の落書きブースに移ってね♡ ]
彼のジャケットから手を離して寄せていた身体を元に戻し、出来るだけ平静を装う。啓悟くんは目を見張ったまま動こうとしない。
『…ほら!早くでよ』
それでも彼は無言のままで、いたたまれなくて先に撮影ブースから抜け出す。……調子乗りすぎたかも
『何やってるんだろ…わたし』
一人ですぐ横の落書きブースに入って、先程撮った写真を眺める。私と彼に似てるようで似てない私達がそこに写ってる。
「うわ、目デカ」
『!!』
すぐ後ろから声が聞こえて、振り返れば啓悟くんは何事もないように入ってきて隣に立つ。撮影ブースより狭いここは彼との距離の近さにドキドキする。
『…い、いーの、こっちのほうが可愛いし』
「カワイイっていうか、もうこれマスコットみたいになってない?」
『いちゃもんつけないで手を動かしてよ』
「へいへい」
面倒くさそうにしながらもなんとなく楽しそうに見える。…啓悟くんが楽しんでくれてたら嬉しい。一通り終えて最後に撮った写真をタップする。
啓悟くんの頬に横からキスをしてる自分がそこにいる。二人とも目線を外して、私に至っては横顔で目を瞑っている。
……これはこのままでいっか
手の中のペンをギュッと握りしめたときだった
「 ひかりちゃん変わったよね」
『…え』
変わった、何がだろう
そう頭の中で問いかけるけどほんとは思い当たる節があった。気持ち、のこと言ってるんじゃ…
「前より明るくなった」
『…ほえ?わたし…そんなに暗い性格だった?』
彼も落書きするのを止めて、私の方にゆっくり顔を向けて眉を垂らして微笑む。どこか寂しそうに
「んー暗いっていうかさ、少なくとも初めて会ったときから明るかったよ?
でもどこか自分に自信になさげでさ、時折上の空で、何考えてんだろこの子って思ってた」
私のことだと言われてるのに、啓悟くんのことを聞いてるみたいだった
…何考えてるかわからなくて、手を伸ばさなければ消えてしまいそうなとこ
「オレと出逢う前の ひかりちゃんが今の ひかりちゃんなんでしょ?
一体誰が元に戻したわけ」