第9章 𝕎𝕒𝕥𝕖𝕣 ℍ𝕪𝕒𝕔𝕚𝕟𝕥𝕙
何を言い出すかと思えば、という顔をして啓悟くんは首を横に振ったあと、私の手首を思い切り引っ張って人目から逃れる。
「 ひかりちゃんといて退屈だったことなんて一度もない
しいていうなら中二のとき添い寝してほしいって頼まれてガチで焦ったことだけ」
『…でも子供っぽいって思ってるでしょ』
啓悟くんは面食らった顔をしたあと「あぁ〜…」と頭を掻いて絞り出すように唸る。私は唇を噛み、自分がとても面倒くさくなってることにイライラする。
「オレは… ひかりちゃんのこと一度も子供だと思って見たことないし、それに…今は傍にいられればそれでいいって思ってる」
熱いものが喉元を通り、しわくちゃになりそうな顔を隠したくて彼に抱きついた。「うおっ」と素っ頓狂な声を無視して背中に回した手に力一杯ギュッと力を込める。
「なんで今更そんなこと?」
『なんとなく…啓悟くんが人気者でちょっぴり…嫌だったから』
嫌がられて離れていくのが、怖くて焦った。轟くんのときも…まで考えて頭を横に振る。啓悟くんの手が腰と後頭部にそっと回され、大事なものを包むみたいに身体が覆われる。
「…狙って言ってんでしょそれ…人ん気も知らんで」
たまに溢れる博多弁が可愛いくて、私の前だけだったら良いなって思う。長かった抱擁を解き、彼の腕を引いてスイスイと歩いていく。たどり着いた場所はゲームセンター。
『ねね、プリクラ撮ろ!わぁ〜種類いっぱい!』
「別にいいけど…子供っぽいがダメなら幼いは?」
『ダメ、あ、これにしよこれ!』
「へいへい」とあまり乗り気ではなさそうな腕を掴んで撮影ブースに入る。全身緑に包まれて不思議な感じ。啓悟くんが指示通りにポーズをしているのを横目に笑いが堪えきれなくなっていると最後のポーズ指示が入る。
[ じゃあ〜最後は〜二人の仲が深まった証として〜キスしてみようね〜〜♡♡ ]
ポカーンと固まりそうになるが容赦なく始まる5秒のカウントダウンに内心焦る。…まさかほんとにするわけじゃ…この狭い密室には私と啓悟くんしかいいない
「ポーズどうする?」
特になんの意味も持たない声色に、その表情が…
酷く焦れったくて、もどかしかった