第9章 𝕎𝕒𝕥𝕖𝕣 ℍ𝕪𝕒𝕔𝕚𝕟𝕥𝕙
「あの…ホークスですよね??サインいいですか?」
さっきは若い大学生の集団で、次は綺麗めなお姉さん達…私達を取り巻く人の数も段々と増えてきてる。口々に「あれ、ホークスじゃん!あのプロヒーローの!」「なんでここに?隣の子だれ?」「私ファンなんだよね!これテレビの撮影とか?」などと声が飛び交い思わず眉間にシワが寄る。
地元では啓悟くんがいる光景は当たり前でここまで騒ぎになることはない。お姉さんたちに手を振り終え、戻って来る視線を敢えて逸らしてショーウィンドーに映る自分と目を合わせる。
いつもよりきっちり整えられた自分。三つ編みハーフアップに啓悟くんが服と一緒にプレゼントしてくれた金色に縁取られたピンクの薔薇のブローチ。
……私にはこんな綺麗なもの勿体なくてどうして彼は…
「思ったよりヤバかーコスじゃまずかったかも」
『例え私服でもまずいと思うけど?』
彼を見ずに素っ気なく答えズカズカと前に進んでいく。ここはこの街で一番デカいショッピングモールで、雄英生は大体ここで遊んだり買い物するのだと三奈ちゃんにこの前教えてもらった。
「 ひかりちゃん、次どーしたい?」
『んん、とりあえずブラブラしながら決める』
「りょ」
啓悟くんは基本私のしたいことを常に優先してくれる。決して人任せにしている訳じゃない、特に私に希望がなければ啓悟くん自身で私を楽しませようとしてくれる。
今日だってずっと観たかった映画に付き合ってくれて、甘いもの好きな私に合わせてパンケーキを食べてくれて…
子供扱いしないでとか言ったけど、実質私自身が子供みたいなのかも…
私は歩幅を緩めて彼へと振り返る。ん?と眉毛を上げて、その笑顔で常に私が何か言うのを待っててくれる。
『啓悟くんは!何かしたいことないの?』
「どしたの急に」
『いつも私のしたいこと合わせてくれるでしょ?そんなのつまんないんじゃないかと思って…退屈してるの我慢してるんだったらごめんね』