第9章 𝕎𝕒𝕥𝕖𝕣 ℍ𝕪𝕒𝕔𝕚𝕟𝕥𝕙
「…オレ、まだ夢の中にいる…?」
啓悟くんの突拍子もない一言に首を捻らせると、彼がワンピースに目を落としてるのが分かる。ゆっくりと手をほどき、柔らかく微笑む。
「… ひかりちゃん、似合いすぎ…
ホンモノの" 花 "に見えるばい…」
気持ちを悟られないように、隠して奥にしまい込む。前の私は一体どうやって乗り切ってたの…?
だって、こんなに泣きそうなほど嬉しい気持ち抑えられない
『…やっぱり、啓悟くんのだったんだね
これどうしたの?』
「昨日のちょっとしたお詫び
…っていうのは建前で少し前に見かけて絶対 ひかりちゃんに似合うと思って買ってきた」
『啓悟くんのセンスがいいんだよ
ありがとう…』
言葉もうそうだし、会わない日も少しでも私を思い浮かべてくれたことが嬉しい。啓悟くんの手が私の髪先に触れて、濡れているのを確認すると剛翼が颯爽とドライアーを持って洗面所からやってくる。
「はーい、オレが髪乾かしてあげるから
こっちおいで?」
『えぇー自分でできるし、なんなら自然乾燥でいいし』
「自然乾燥って、 ひかりちゃんの容姿からじゃ想像できないこと言う」
『なにそれ??』
「ううん、なんでもないデース」
『うぉわっ』背後に回っていた数羽の剛翼に背中を押されて、ベッドの縁に腰掛けている彼の足の中に座らせられる。渋々体育座りして、啓悟くんの手が触れる擽ったさに耐える。
まんべんなくヘアミルクを塗りたくられ、ブォーとドライヤーが唸り始めてから六分ほど経過する。
『お腹すいたぁ』
「はいはい、それもあとで」
『……今日は啓悟くんいつまでいるの?』
さっきからずっと喉につっかえていたことをさり気なく会話に出す。彼はわざとらしく「うーん」と唸ったあとドライアーの音が止む。
「ずっと、かな」
『ずっと…?!一日中一緒にいるってこと?』
弾む声に啓悟くんは一瞬目を見開き、それから私の頭に手を置いた。
「そうだよ、それからデートに誘おうと思ってる」
聞き慣れない言い方に胸が跳ねて体に力が入る。私の手を掬い取り、手の甲にふわりと羽のように軽いキスが落とされる。
「 ひかりちゃんのいう子供じゃなくて
一人の女のコとして誘ってるから」