第9章 𝕎𝕒𝕥𝕖𝕣 ℍ𝕪𝕒𝕔𝕚𝕟𝕥𝕙
あれ…こんなのいつ買ったんだろ
受け取って広げてみて更に驚く。ホワイトとピンクが混ざったような控えめな淡色。パフスリーブに胸元がレースで透けていてとても可愛い…
全体の花柄に加え、スカート部分には小ぶりの花びらが舞っているかのように散りばめられており、膨らんだスカート自体が花開く瞬間のようだ
しっかりとした上質な生地にいかにも高そうなブランドの服って感じ…
啓悟くんに聞こうと口を開くが、声が喉を通る前に口が閉じる。…今までの私ならなんやかんやで聞けてたかもしれないけど…いまは聞けない
嬉しさを隠せる自信がない
『上がったよー!けーごくんー??』
時計を見ると9時40分を回っていてニュース番組が大体終わりワイドショーに移り変わっていた。返事がなくてリビングに踏み入れると窓際の壁を背にして目を閉じてる彼の姿を見つけた。
『…寝てるの?』
やっぱり返事がない。上半身が小さく上下しており穏やかな表情から目が離せない。
音を立てぬようゆっくり近付き、目の前でおなじ目線までしゃがむ。その精悍な顔つきに落書きでもしてやろうなんて考えながら、手を伸ばしていた。
鼻先をちょんっとつっつき、頬も同様に指先を沈める。
『……』
斜め下にズラして恐る恐る唇に触れてみる。薄くて形の良いほのかに柔らかい感触。
『……ごめん』
誰に向けて言ったのか今だけは考えることを放棄して逃げた。その代わり人差し指から唇にチェンジして彼の口元に吸い付く。
唇を通してこの想いが流れ込むように。
名残惜しく最後に深く押し付けさっと唇を引っ込める。そしてしばらくしてから彼の瞼が上がる。
「…あれ?」
『…あ、やっと起きた…!
人の部屋来て寝ちゃうなんてありえないよ』
まるで悪いことをしたみたいに心臓がドギマギする。気付いてるのかな…?じぃーっと観察するように啓悟くんを眺めていると、髪を纏めていたタオルがずり落ち、半濡れの毛先が落ちてくる。
『…あっ…』
せっかくの服が濡れないようにすかさずタオルを拾い上げようとしたときだった。指先が届く前に手首は掴まれ、前に引き寄せられる。目の前にはまだ少しぼんやりしてる啓悟くんの顔。バレたんじゃないかって気が気じゃなかった