第8章 𝕊𝕦𝕟𝕗𝕝𝕠𝕨𝕖𝕣
ハグの勢いで後ろに倒れそうになるけど轟くんがしっかり支えてくれてるのと背後が壁のお陰で転ばずに済んだ
『…なんかあったの…?』
彼の背中にそっと手を回し撫でるように動かすと、轟くんは甘えるように私の肩に顔を埋めモゾモゾと左右に首を振る
…?何もないってこと?
「… 秋月 に話があって」
弱々しい掠れた声音に胸がキューッと掴まれたような気分を味わう
背中を擦る手に力を込め、もう一度いたわるように優しく声をかける
『…轟くん、何かあったの?』
轟くんは少しの間動かなくて、それからゆっくりと顔を上げ私の顔を見ながらぽつりと言葉を落とす
内容は轟くんの過酷な過去
冷酷なお父さんや、入院してしまったお母さんのこと
そして自身を縛り付ける個性に対する嫌悪
ずっと他人に心を開かず15年間生きてきたこと
私じゃ計り知れない痛みが隠れてて
こうやって言葉にしても全然足りない、知ったところで何か出来るわけじゃないのに、悔しくて悲しくてたまらなくて本人でもないのに勝手に涙腺が緩む
「… 秋月 ありがとな」
『…?』
「最後まで、聞いてくれて」
普段あまり感情を表に出さないから、轟くんが静かに寂しそうに微笑むのを見て、この瞬間言葉なんていらないと思った
その笑顔をなにかに例えるなら冬の湖の空にちらりと太陽が光を落とすような
ほんの一瞬で、とても綺羅びやかでまるで幻みたいで____
轟くんの肩の布あたりを掴んで自ら顔を寄せて彼と自分の唇を重ねた
軽いキスが精一杯ですぐ離し、見開かれた両目と目を合わせる
『この前の…大事だけじゃやっぱりわからない
ねぇ、もう待てないよ…』
縋る様はみっともなくて、あの話のあとにこれはないだろうと思う。でも今言わないと…轟くんが消えてしまいそうで怖かった
言葉を失ってる彼に、自分はとんでもない失態をおかしたのだと気付き涙がとめどなくこぼれ落ちる
彼の肩に置いていた手はダラッと脱力し、だらりとぶら下がる
『…そっか…轟くんは…もう私なんて必要ないんだ』