第7章 気まぐれ
宿儺の答えが想像と違いすぎて面食らってしまった。
目の前で、スニーカーを脱いで制服の裾を捲る宿儺に驚いてまじまじと見てしまった。
「貴様は人の顔をじろじろと見るのが趣味か。」
私には目もくれず、両方の裾を捲り終えると、海に入っていく宿儺。
「なんだ、来ないのか。八雲。」
突然呼ばれた名前に、心臓が大きく脈打った。それを誤魔化すように、宿儺を追ってまた海に足を踏み入れる。
「やはり光は生で感じるに限るな。」
月を見上げて宿儺が言った。私も真似して月を見上げてみた。月の光を浴びるのは大して珍しいことでは無い。でも、常に虎杖君の中にいる宿儺からしたら凄く珍しい事なのかもしれない。
そんな考え事をして、上を向いたまま足を踏み出してしまった。少し緩んだ砂に足を取られ体が傾いた。
水浸しの学ランを覚悟したが、冷たいはずの水が体を包むどころか、暖かい体温に体を包まれていた。
「全く、お前は間抜けな女だ。」
宿儺が私を支えていた。
転びかけたせいか。心臓が煩い。宿儺に立たせてもらった後もドキドキとなりやむことは無かった。
「あ、ありがとう…」
これから殺す人間が転んだってどうでもいいはずなのに…。
星空を見上げて、ふとかんちゃんが思い浮かんだ。もうちょっとで行くからね。心の中でそう言って、宿儺を真っ直ぐに見る。
「覚悟は出来た。痛くないように殺ってよね。」
「はぁ?」
宿儺は意味がわからないとでも言いたげな顔で私を見た。
「私の事殺すんじゃないの?」
私が聞くと宿儺は呆れたようにため息をついた。そして、私に歩み寄ると私の腕を引き腰に手を回した。宿儺と密着する形になる。
「お前は何か勘違いしているようだな。お前の様な小物、殺してもつまらん。」
「じゃあ、何よ。3ヶ月とか言っておいて。」
「待っている間に飽きた。」
そんな簡単に飽きるような事に私は全力を注いでいたの?おかしくない?気まぐれすぎる。
呆れて物も言えずにいると、顎が持ち上げられ柔らかい何かが唇に当たった。怪しく光る宿儺の目と目が合い、恥ずかしさから目を瞑った。
重ねられた唇からなんとか逃れようと宿儺を押してもやはりビクともしない。