第7章 気まぐれ
不機嫌を全面に押し出す宿儺をじっと見る。視線は合わない。
___ちょっと早めに殺しやろうかなとか思ったのかな?
___皆にお別れ言ってないや。
___こんなところで死んだら硝子さんびっくりしちゃうよね。
___この場合は虎杖君が悪くなるのかな。
なんて考えばかりが頭を巡る。そうやっていつまでも見つめられていると、いくら呪いの王と言えど、我慢ならないらしい。
「なんだ?小娘。」
眉間に皺を寄せ、ギロりと私を睨んだ。
「場所変えようか。外の空気も吸いたいし。」
私が立ち上がって、扉を開くとぐっと腕が後ろに引かれた。
「な、何??」
外に行く余裕もないくらい私を殺したいって事?それとも単なる殺人欲求?
体を強ばらせて、振り向くと顔を顰めて宿儺は言った。
「貴様は裸足で外を出歩くのか。」
宿儺に指摘され、自分が裸足だったことに気が付いた。靴下はどこに行ったのか分からなかったので、とりあえずスニーカーに足を入れた。
外に出ると、満点の星空だった。息を吸い込むと澄んだ空気が肺を満たした。清々しい気分になり、ふとある考えが頭に浮かんだ。
「ねぇ。行きたいところあるから、着いてきて。」
宿儺に背を向け歩き出した。宿儺は何も言わずに着いてきてくれた。
「行きたい所というのは海か」
潮風の匂いが鼻を掠める程海に近づいた時、宿儺が口を開いた。
「そうだよ。夜の海、行ってみたかったの。」
私たちはコンクリートの階段を降り、砂浜に立った。柔らかい砂を踏みしめて海に進む。緩やかに押し寄せては海に帰って行く波に私は我慢できず、スニーカーを脱ぎ捨てて走り出した。
足を踏み入れると思っていたよりも冷たい海水に身震いした。水温に慣れるてからは、バシャバシャと水を足で軽く掬い上げながら歩いた。
海に映る大きな月と星空に夢のような心地がした。
ふと宿儺を見ると数歩遅れて私についてきていた。私は海から出て、宿儺の元に戻った。
「宿儺は入らないの?」
私は一体誰に向かってなんて事を言っているのだろうと自分でも思ってしまった。相手は呪いの王なのに。きっと、''貴様と一緒にするな''とかそんな事を言われるんだろう。
「そうだな。」