第3章 秘密
「宿儺と闘った時どうだった?」
五条の質問に何か考える様子もなく八雲は言った。
「急に吹っ飛んだ。」
八雲の感想に、自分から聞いたくせに五条は乾いた笑いをこぼした。
「ちゃんとは入ってなかったけど、1発だけ当てたでしょ?」
「んまぁ、そうらけろ、はいんははひみはいほへ。」
訳:んまぁ、そうだけど、入んなきゃ意味ないよね。
ドーナツを頬張ったままで人語を成していなかったが、言葉の片片を聞いてなんとか理解した五条はふっと笑った。
あの状況で当てること自体が難しい事に八雲自信が気が付いていないことが何とも残念だった。
「ていうか、明日から…」
五条は話題を変えようとした。しかし、自動ドアが開きその方向に八雲の視線は釘付けになった。
「真衣ちゃーん!と、東堂…さん。」
後から入ってきた東堂葵に先に入ってきた禪院真衣とは打って変わって明ら様に顔を顰める八雲。
「八雲。あんたここで何してんのよ。」
「ドーナツ食べてるんだよ。最強の奢りで」
「そんなの見ればわかるから。私が言いたいのは、人からの電話に一切出ないで、何やってんのって事よ。明日から交流会だって言うのに」
「え?先生そうなの?」
「そうだよー。だからここ居ていいのかな〜って思ったんだけど。」
目の前で眉間に皺を寄せる真衣を見て、八雲は苦笑いすると頬かいた。
「あんた、メールも見てないの?」
首を横に振ると、慌ててポケットからスマホを取り出し、メールを確認した。溜まりに溜まって下の方になっていたが、確かに、真衣、教師である歌姫からも連絡は来ていた。
「へへへ…ごめんなさい。」
「ったく。ちゃんと来なさいよ。」
「大丈夫だよ。僕がちゃーんと連れてくからね。」
真衣は軽く会釈すると、東堂と共にドーナツを買いに店の奥へと入っていった。
「相変わらず連絡不精だね。」
「面倒くさくて見るの忘れちゃうんだよね。」
八雲は最後の一口を口に放り込み立ち上がった。
「君が寝坊さえしなければ僕が連れていくから。」
八雲に続いて席を立つと、一緒に店を出た。
「先生。」
「どうかした?」
八雲は自分の秘密を五条に言おうとした。が勇気は出ずそのままはぐらかした。