第3章 秘密
(全く、厄介なことになった)
目を覚ました八雲が真っ先に思ったのはそれだった。
ただでさえ1年の余命宣告を受けていたのに、それが7ヶ月も縮んだとなれば余計に神無に言うことが難しくなったのだ。
「はぁ〜」
「目が覚めてすぐ溜め息なんて八雲らしくないね」
壁に寄りかかり腕を組んだ五条が言った。高専の医務室のベッドで眠っていた八雲を五条は起きるまで待っていたらしい。
八雲は早々にベッドから降りると、五条に歩みよった。
「かんちゃん言ってないよね?」
「うん。言ってないよー」
五条の言葉にほっと胸を撫で下ろすと、八雲は医務室を出ていこうとした。しかし五条はそれを止めた。
「神無まだ帰って来れないらしいけど、どうする??」
何かを企んでいる顔で五条が八雲に言うと、八雲も少し考え口を開いた。
「ドーナツ」
「よし。乗った。」
2人で医務室を出ようとすると、暫く出払っていた硝子が戻ってきた。
「お前は仕事あるだろ。」
「大丈夫。今日はもう無いよ。(伊地知に押付けた)」
そういうと、八雲を脇に抱え早々と医務室から出ていってしまった。残された硝子はため息を着くと自分の仕事に取り掛かった。
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「うーんまぁっ!まじ先生太っ腹!顔だけじゃないねぇ」
「でしょ〜。でも一言多いよ〜?」
2人並んでドーナツを頬張り談笑していた。八雲の皿の上には大ドーナツが積み上げられている。もちろん五条の皿にも。
色んな意味で店内は彼らの話題でもちきりだった。
「え、めっちゃかわいい。めっちゃ食べるじゃん。」
「目隠しの下どうなってんだろー?」
「カップル?」
「さっき女の子の方が先生って言ってたよ!」
あちこちから聞こえてくる声に2人は顔を見合わせた。
「食べずら。」
「大丈夫だよ。」
大丈夫だよの後に何かを言おうとしていた五条は結局何も言わずに2つ目のドーナツに口をつけた。八雲は半分程残っていたドーナツを口に押し込んだ。