第5章 バルバトス(2話)
三日月の身体が動いた。彼から苦痛の声が漏れて、驚いて離れると青い瞳と視線があう。驚いた様に目を見開く三日月。
「ティフェ?」
『目が覚めてよかった!』
感激で抱きつくと、ゆっくりだが三日月の腕が背中に回る。腕が回ってほっとした。あのまま目覚めなかったらと思うと、三日月から離れたくない。
「大丈夫か?今外してやるからな」
雪之丞がバルバトスとつながる阿頼耶式のケーブルを切り離す。三日月の身体を支えるが、ティフェの体は小さいので包まれる形になる。
『ミカ、大丈夫?』
「うん」
三日月から長いプラグが引き抜かれてホッとする。ぎゅっと三日月の腕が腰に回って身体が密着した。
「…何人死んだの」
耳元で呟く三日月に返事をしたのは雪之丞だった。
「3番組は21人、1軍は68人だ。お前とこいつはよく頑張ったよ」
三日月の表情が強張った。死んでしまった者の数を聞いてティフェは理解できなかった。誰がこんなことを仕向けているのだ。何も知らない自分に腹が立った。
抱きついているままでは悪いので、三日月の肩を押して離れるとグイッと腕を引かれる。
「ティフェ、大丈夫?」
大丈夫と聞かれた意味がわからない。
「血が出てる」
ティフェの上着の胸元に血がついていた。これは三日月の血なのだが、彼は上着の下に手を入れて胸元を触って来る。
『うぇっ!?』
「先に手当てした方がいい。おやっさん包帯ある?」
『傷じゃないから!これミカの鼻血だから!』
「俺の?」
『うん。私は大丈夫だから』
さりげなく後ろへ身をひいて三日月の手から逃れる。
「よかった」
安心した様子だが全然良く無い。三日月が気絶してる姿を見てティフェは胸が張り裂ける思いだった。
『全然良くないよ』
睨みつけると三日月は困った様に眉を下げた。
「ごめん」
なぜ機嫌が悪いか三日月はわかってない。
『無茶はしないでよ』
三日月に身体を労ってほしいと思っているが、直接言えずもどかしく睨みつける。
「うん」
本当にわかってくれているのだろうか…不安で目が離せない。