第5章 バルバトス(2話)
婚約者に聞いても、詳しく教えられなかった機体が目の前で動いている。早く滑らかなその動きは信じられないほど魅力的だった。
『ミカ?』
バルバトスは土を巻き上げながら残りのMSと戦っている。こちらを守る動き。あんなこと出来るのは三日月しかいない。やられる前に撤退していくギャラルホルンを三日月は追おうとして、動きを止めてしまった。
バルバトスの目の光は消え沈黙している。動力源が切れてしまったようだ。
『ミカ!』
MWでMSの元へ向かう。ハッチを開けて外に出てMSを見上げると沈黙している機体。中の三日月は大丈夫だろうか?個体物質を器用に使ってMSへよじ登る。コックピットの開け方が分からず、個体物質を突っ込んで強制的にハッチを開ける。
『ミカ!!』
返事をして欲しい。応答がないコックピットを覗くと、失って頭を垂れている三日月からポタポタと血が垂れていた。神経の負荷で鼻血を出している。
慌てて中へ入り彼の胸に飛び込んで耳を押し付ける。心音が聞こえた。大丈夫、生きてる。ダラダラと流れている鼻血に肝が冷える。MSの情報量は相当なものなのだろう。袖で鼻血を拭うと少し遅れて雪之丞がやってきた。
「大丈夫か?」
『雪之丞!ミカからこんなに血が』
慌ててそばまでくる雪之丞はミカの様子を見てティフェの頭に手を置いた。
「安心しろ、気を失ってるだけだ」
目に涙を浮かべ三日月を抱きしめ雪之丞を見上げる。こんなに血が出ていて大丈夫と言われても安心できない。腕に力を入れる。
『…起きるかな』
「信じて待っててやろう」
『うん』
赤い血の跡はなかなか綺麗にならない。水が有ればもっと綺麗になるのに。
『ミカ…目を覚まして』
私の名前を呼んで欲しい。何を言わなくてもそばに居てくれた人。私を置いて行かないで。冷たいが心音も温もりもある。
微かなそれを感じたくて、自分のエネルギーを三日月に分けられるように彼を抱き締めることしか出来なかった。