第4章 鉄血と血と(1話)
個体物質をMWモビルワーカーに繋げば阿頼耶識と同じく機体を操作することができた。自分だけの空間。狭いコックピットの中で上着を脱いで薄手の黒シャツ一枚になる。腕をしっかり伸ばしてハンドルを握り気合を入れる。
荒野でペイント弾を使用し演習をしているMWモビルワーカー達。砂埃を巻き上げ銃声が響く。地面から伝わる振動に鼓動が早まる。
パイロットは三日月とティフェ、そから同じ三番組に所属しているユージン達。
「くっそ、三日月の野郎ッ!」
三日月に当てられ悔しそうに嘆くユージンの声が通信機から聴こえてきた。その影から飛び出して昭弘と交戦している三日月の背後を取る。つもりが、軽くかわされて返り討ちにあってしまった。
『ぎゃー、ミカ強いなー』
三日月に勝った事が一度もないティフェは悔しそうに声を上げる。
「本気じゃないからだよ」
落ち着いた声の三日月は毎度同じ事を言う。本気じゃない?そんな事ないのに…ティフェは買い被りすぎだと笑う。
『全力だよ』
笑って言うとユージンの怒鳴り声が通信から流れてくる。
「手抜いてんじゃねーよ!」
『だから本気だってー』
ユージンから野次が飛んできてガミガミと説教が始まる。これを聞いていたら昼ご飯が終わってしまうと、軽く相槌を打ちながら聞き流して車庫へ戻るティフェであった。
車庫に戻ると先に戻っていた三日月がハッチを開けてくれた。手を掴んでコックピットから出ると上半身裸の三日月。綺麗についた筋肉に釘付けになる。前世では一度も見た事がなかった男の肉体に見入っていると上着を渡される。
『ミカ?』
「風邪ひくから着た方がいい」
視線を下げてコチラを見ない三日月。訓練が終わると直ぐに駆けつけて上着をくれる彼はとても紳士である。マクギリスとは雲泥の差だ。
『ありがとう』
袖を通すと長い丈だからか暖かい。ティフェはコックピットの内部を見るが上着は見当たらなかった。またどこに置いたかな…首を捻っても思い出すことは無い。名前を書いているから届けてくれるのを待つだけだ。
『いつもごめんね、寒いよね』
「俺は平気」
ポケットが重くて手を入れると火星ヤシが指に触れた。口寂しい。
「食べていいよ」
『え!?そ、そこまでは!』
じっとポケットを見つめていたティフェは分かりやすかった。