第4章 鉄血と血と(1話)
ーーーーオルガーーーー
名前を呼ばれ目を開けたオルガ。黒髪に深い海の様な眼をした三日月は、彼が目覚めるのを側で待っていた。
「おお。ミカ」
「おおじゃないよ。またこんな所でサボって、見つかったらまた何されるか」
「わかってるよ」
三日月の小言を軽く流すオルガは体を起こして右上に視線を向ける。
「姉貴なら上にいる」
オルガの視線の先を見て三日月は目を細めた。
「…またあんな所で」
三日月は体を伸ばしているオルガを残して、一人で階段を登りMSモビルスーツの元へ向かった。機械質な右肩の上に燃えるような赤髪が見える。静かに眠っている少女の肌は雪の様に白く、人形の様に正気が感じられないが頬に手で触れると温かい。
そのまま肩に移動させて軽くゆする。
「ティフェ、起きて」
目を開くのは光の加減で金色に輝く緑瞳。
『みか?』
「おはよう」
体を起こして目を擦るティフェに手を差し伸べる。彼女は欠伸をしながらその手を掴んで立ち上がり三日月を見上げた。
『ご飯の時間?それとも走り込み?』
まだ完全に起きていない彼女は、ぼーっと三日月を見上げながら腰から伸びている赤いコードの様な尻尾をユラユラと揺らす。
「どっちも違う、オルガを呼びにきた。見つかる前に戻ろう」
『えー、暖かいのに』
嫌だと言うと困った顔をする三日月が可愛い。
『冗談!早く訓練に戻ろう…オルガに何か様なのかな?』
「さあ、詳しくは聞いてない」
『また新しい授業の拡大かな?めんどくさいなぁ。とばっちりは勘弁して欲しいよ』
敷いていた上着を羽織って階段を降りると完全に目を覚ましたオルガが笑っていた。
「起きたか、姉貴」
『もっと寝てたかったよー』
「また来ようぜ。寝られる時に寝とかねーとな」
ニシシと笑い合っていると三日月の呆れた様なため息が聞こえた。
『ミカも一緒に寝よーよ』
「嫌だよ。一緒に寝ると一日動けない」
筋トレオタクの三日月にフラれたティフェは笑って彼の頭を撫でた。
『ミカの素直な所可愛いー』
「こりねーな」
大人しく撫でられている三日月に満遍の笑みで撫で続けるティフェ。鋼の心とはこのことか、特に気にすることなく好き勝手にする彼女に三日月は抵抗せずおとなしい。むしろ気持ちよさそうに目を細めていた。