第5章 高杉 人形が恋をする
私は、自分のことをただの人形だと思っている。
男に買われ、その日限りの疑似とも取れぬ恋愛をし、
ただ身体を重ね、夜が明けるのを待つ。
生まれながらのこの道から
今更逃げ出そうだなんて思わない。
否、逃げ出す術を知らない。
私はここ以外の世界を知らない。
ただ、あの人の匂いだけが
一瞬だけ外の世界を感じさせてくれる。
「高杉様…お会いしたかったです。」
少し小柄なその人は、
私を吟味するかのように頬を撫でる。
独特な煙管の匂いが私の全身を巡る。
「相変わらず死んだような顔してるな」
彼は嘲笑うかのようにそう言った。