第11章 【水曜日はキミ曜日】
永瀬くんって…結構言うんだ。
自分が見てきた永瀬くんからは想像できなかったけど
僕がまだ知らない永瀬くんがいるのは当然で。
だって僕は、水曜日のほんの少しの時間しか
彼と一緒に過ごしてないわけだし…。
そんなことを思ってたら
バタバタと教室から出てきた黒木さんに
キッと睨まれ「立ち聞き…?趣味悪っ!」
なんて吐き捨てられた。
えぇーー…僕だって聞きたくて聞いたわけじゃ…
なんてモヤモヤしながら教室に入る。
「永瀬…くん?ごめん、入るね…」
「あっ、、髙橋くんやったんや…。
ごめんな?変なとこ見せちゃって…
おまけにさっき、嫌なこと言うとったな、あのコ。
髙橋くん、完全にもらい事故やんなぁ苦笑」
「あ…いや、その…こっちこそごめん、
聞いちゃって…。」
なんとも言えない空気が漂う…。
「あー…はは。なんか、気まずっ!苦笑」
「ははは…けど、
やっぱモテるんだね、永瀬くんって。
まぁ、当然っちゃ当然なんだけどさっ!」
「あんま、えぇことないけどな…苦笑」
なんでだろう。
告白してもらうって僕はまだ経験したことないけど、
だからこそ?憧れがあるしすごく羨ましいのに、
そう零した永瀬くんは少し、淋しそうで…。
「…そうなの?」そう質問した僕にハッと
我に返ったように笑顔を作った永瀬くんのことを
もっと、知りたいなって…そう思ったんだ。
「うそ!うそ笑
お陰さまでええ想いはさせてもらえとるわ笑」
そう笑う永瀬くんと僕の間に
風でなびいたレースカーテンで境界がひかれた。
なんでかわかんないけど、
永瀬くんが泣いてる気がして…。
「いいよ…無理して笑わないで」
そう呟いた僕は
カーテンの向こう側の永瀬くんを
引き寄せて、抱きしめていた。
「何してるん笑」って笑い飛ばされるかと
思ったけど、永瀬くんは
「…ありがとうな」って僕の背中をさすって
そのまま…、抱きしめ返してくれた。
教室を施錠するために残ってる生徒に声をかけながら
近づいてくる用務員さんの気配に
咄嗟に離れた僕たちはあたふたと、帰り支度をする。
そんな僕たちに「早く帰れよー!」なんて
あっけらかんと声をかけてくる用務員さんのおかげで
僕たちはいつもの僕たちのままで
教室を後にすることができた。