第22章 哀傷と蒼炎※焦凍
しばらくはお互い何も話さなかった。
ただ泣いているゆらを抱き締めて、彼女が自分から話し出すのを焦凍は待った。
その内ポツリ、ポツリと小さな声でゆらは話し出した。
最初は強化合宿の時の荼毘との出会いからだった。
その時に初めて荼毘を見た時の衝動から、彼が欲しくて欲しくてたまらない恋心まで。
気がつくとゆらは涙と一緒に全部言葉に出していた。
荼毘を通じて死柄木と出会った事。
ゆらは公安とホークスとの関係は伏せなながら、ただ自分の感情だけを吐き出した。
「……焦凍…私は………、死柄木で他傷行為の衝動を覚えてしまった……。」
それは荼毘に感じた様な、自分のモノにしたいとか、縛り付けて自分の側に置きたい。
そんな衝動とは全く別の。
まるで快楽犯罪者が、犯罪行為に快楽を覚える様な。
そんな持ってはいけない衝動だ。
それが自分の中で芽生えた時に、大きな恐怖感と…同様に沸き起こってきた言いようのない甘美な感情が、今でも鮮明に思い出される。
まるで自分の個性がそうさせている様に、そして死柄木は何の躊躇いもなくそのパンドラの蓋を簡単に開けてくる。
離れたくても死柄木の目を見たら、勝手に手が伸びて彼をめちゃくちゃにしたい悍ましい衝動に、ゆらは顔を歪めた。
簡単に死柄木を壊している自分を想像出来る。
その姿は今まで見たどんなヴィランよりも、醜く笑っているのに、想像の中の自分は誰よりも幸せそうに甘美な感情に身を任せて笑っている。
ああ……もう……。
私はヒーローには戻れないと悟った。