第9章 インハイ 予選
仙台市体育館廊下
着替え終わった日向くんがブルブルと震えだした。
「どうしたの?」
「む・・・むひゃうるいだ!」
「武者震いって言ったんじゃない?」菅原先輩が通訳する。
「(緊張するよね。さっき会った伊達工業さん凄かったもんな)」
そう思ったら私にも緊張が伝染してきた。
「一ノ瀬も緊張してる?」
「は、はい」
「表情硬いな~ほら!リラックス、リラックス」
隣で深呼吸する先輩にならって自分も深い呼吸を繰り返す
「菅原先輩は緊張しないんですか?」
「してたけど、自分より緊張してるやつみたら平気になったよ」
いたずらっ子のように笑った。
菅原先輩の笑顔は不思議だ。見てると安心する
「おっ!やっといい顔になってきたな」
「一ノ瀬も日向の緊張がうつったのか?でも、うん。もう大丈夫そうだな」
澤村先輩も私の表情を確認した後優しく笑いかけてくれた。
日向くんは旭先輩から聞いた緊張を紛らわすコツを実践して無事に乗り越えたみたい。
3年生は皆さん本当に頼もしい
試合が始まればベンチに入れるマネージャーは1人
「一ノ瀬ぜったい勝つぞ!あっちからの応援頼んだ」
「うん!私も頑張る!」日向くんに力強くうなずく
私のポジションはあそこ(観客席)だ。
ウォームアップが終わった皆とハイタッチ
「気合入りすぎ、いまからそんなんじゃ試合中にへばるよ?」
緊張とは無縁そうな月島くんに感心した。
「みな、お前の応援は力出るからな!しっかり頼むぞ!」
西谷先輩に言われ更に気合が入る。これ持ってろ、と渡されたタオルにはデカデカと「一騎当千」と書かれていた
「飛べ」の横断幕がしっかり手すりに結び付けてあるのを再確認した後、思い切り息を吸い込む
「烏野ファイトー!」
試合直前のみんなに向かってめいっぱい大きな声を出した。
周りの視線が恥ずかしかったけど、今の私に出来ることはこれしかない。
そんな一ノ瀬の姿と声はベンチ、そしてコートに立つみんなにも届いていた。”全員で勝利を掴み取る!”その思いを抱えて試合に臨む
1回戦の対戦相手は澤村の同級生がいる常波高校
2-0で烏野が勝ち進んだ。
「うちのマネージャーの応援は凄く力になるし気合入るな。ただ・・・時々あの場所から落ちるんじゃないか?って心配したよ。あとで言っておかないとな」
困ったように澤村が笑った