
第74章 春高1日目夜 『気付き』

明日の稲荷崎戦に向けたミーティングが先ほど終了した。
「宮さんが双子だったのは驚いたな!」
昨年3位で今大会の優勝候補の1つ。宮侑さんはユースにも選ばれてるし・・・強敵だ。
そうそう!今日の1回戦は音駒も梟谷も勝ち上がっている。
「(合宿で一緒だったみんなも勝ち上がった!)」
でもこのまま進んでいけばいつか対戦相手になる
「(・・・あれ?なんか寒い)」
どこからか冷たい風を感じてブルっと身を震わせる
風を感じるほうに視線を動かせば奥のドアが少しだけ開いてる。
寒さの原因はここだ
「(風邪ひいたら困るし締めとこ)」
ドアノブに手を伸ばしたとき話し声が聞こえた
大地先輩たち?
「”いよいよ最後の大会だな”ってやつ・・」
その言葉で頭が真っ白になって続きは聞こえなくなった。
3年生にとって烏野で、このメンバーで戦える最後の公式戦・・・
「(ずっと考えないようにしてたのに)」
3人がこちらに歩いて来たので反射的に隠れた
先輩たちがさっきまで立っていた場所に私も立ってみる
息を吐き出せば白くなって東京の夜空に消えていった。
「(みんなで来たかった場所についに来た!けどこれが終わってしまったら)」
つい余計なことを考えてしまう。
たった1年しか同じ時間を過ごせないということ
その事実に思わず泣きそうになってしまったけど、縁下先輩と陰で泣かないって約束したから必死に我慢した。
「あれ?なんか寒い?締め忘れたか」
俺見てくる、と菅原が引き返した。
「(全く~旭のやつ最後に出たんだから確認しろよな!)」
やっぱり開いてたドアに近づくと人の気配を感じる。
さっきまで自分たちがいた場所に後輩の小さな背中が見えた。
「(??・・なんか・・・)」
少し震えてる?
「ここ寒いだろ?風邪ひくぞ・・って、え?」
こちらの声に驚いて振り返ったその顔を見てこっちも驚く。
「なんだよ!?どうした?」
今にも溢れそうな涙をためた、泣くのを必死に我慢している顔がある
「俺さ、日向が入部前に影山のレシーブひたすら拾ってるの見たとき
”苦しい!ってなったときにもう1歩を踏み出せるすごいやつ”って驚いたんだ」
一ノ瀬の気持ちが落ち着くまで少しここにいることにした
「それって誰でも出来ることじゃないからさ。
・・でも、一ノ瀬もそうだった。月島や山口、影山も。烏野の1年は全員頼もしいよ」
