
第72章 春高一回戦 vs椿原学園①

「(ま、まずは落ち着いて!すーはー、すーはーって深呼吸だよ!)」
力の入る手を握りしめてコートで戦う選手たちに念を送る
「一ノ瀬、一戦目で気合入ってるのは分かるけど・・・ここら辺の酸素ぜんぶ吸い尽くしそうで怖いからお前はちょっと落ち着け?な?」
烏養コーチが困ったように言うと、横に座る武田先生がこらえきれずに笑った
「おっ!ナイス田中!」
長くなってしまったトスを田中先輩がカバーした
影山くんの調整が合うまでみんなが支える。
日向くんが後衛に回ったところで山口くんにバトンタッチ
「山口くん、行ってらっしゃい!」
「うん!」
頼もしい背中がコートに向かって歩いていく
和久谷南戦で悔しい思いをした時の面影はもうない。
1本、2本とサーブで椿原学園を乱す
「よし!いいですよ、いいですよ!」
3本目で取られてしまったが、山口くんが烏野に勢いをつけてくれる
ハイタッチで迎えると”もっとできた”と悔しそうな顔をした。
入れ替わりでコートに戻っていく日向くんの顔を見れば、”おれにトスくれ!”って強い視線で影山くんに思いっきりアピールしてる。
「(本当に、みんな頼もしくてすごいな。いつもの場所からじゃ見えない景色だ)」
椿原学園の攻撃を大地先輩が綺麗に上げる
「大地先輩ナイスレシーブ!」
影山くんが瞬時にボールの下に移動した。
飛び込んできた日向くんにドンピシャのトス!そして目にも止まらぬ速攻が決まる
一瞬静まり返った会場に歓声が響いた。
二人の速攻が東京体育館を沸かせる!
「「「キター!」」」
烏養コーチ、武田先生、私の声が綺麗に重なった。
「(ついにきた!!やっぱり二人のバレーは凄い!)」
「でも烏養くん、バタつく初戦でこの速攻を使う必要は無かったのでは?シンクロ攻撃だって強力なのに」
「”見せておく”って大事なんだぜ先生」
二人の速攻に気を取られている椿原学園に影山くんがツーアタックを決めた!
「「ノッてきたぁー!」」
続いて強烈なサーブを放つ
「すごい!・・でも拾った!?」
ボールはそのまま烏野側に返ってくる
「!!サーブ打ったのにそのままセットアップ!?」
影山くんが止まらない。コート上での存在感を見せつけて1セット目が終わった
「・・・世界が影山くんを見つけますよ」
武田先生が力強く言う
世界に羽ばたいていく影山くんの姿が私にも見えた気がした
