第70章 西の風
いよいよ東京へ出発!
向こうに着いてから体育館へ移動した後、明日から始まる春高に備えて軽いウォーミングアップをする予定だ。
年明けに嫌な夢を見たからなんだか緊張してしまって・・・昨日はあまりよく眠れなかった。
そのおかげで朝ごはん食べられなかったし、バス酔いまでしてしちゃって・・・
「(何度もこの道通ってるはずなのに今日はものすごく長く感じる)」
変わらない高速道路の景色を見つめる。
体育館に着いてからもずーっと青白い顔していた。
「これからミーティングだけど、お前はここで休んでろ。荷物番な?」
まだ顔色がよくない私を見て烏養コーチが言う。
黙ってうなずいた。
時間が経ってくるとやっと気分が落ち着いてきた。
宿泊先のおばちゃんが持たせてくれたおにぎりを取り出してパクリと頬張る。
朝から何も口にしてなかったのでとてもおなかが空いていた。
「(おいしい!・・・でも)」
目の前のおにぎりをジッと見つめる
浮かんだのはおばあちゃんの笑顔
「(おばあちゃんの漬物食べたくなるなぁ~)」
宮城を出発してからまだちょっとしか経ってないのにもうホームシックだ。
「(子供みたい。東京遠征は初めてじゃないのになぁ。ハァ・・・)」
「えらい美味そうにおにぎり食うてるな~思たら急に泣きそうになってるやん。どないしたん?迷子なんか?」
頭上から聞こえてくる聞きなれない関西弁
おにぎりをくわえたまま、ゆっくり上に視線を移す。
「それ朝メシ?時間的にもう昼か。なんや俺も腹減ってくるわ~」
ニィーッ!と笑いかけられる。
驚いてボーッとしていると
「俺の顔になんかついとる?」
グイっと顔を近づけてくる。
少し眠たそうな目元だけど、大きくてすごく目力がある。
「えっ・・・あ、あの・・・」
「治、よそ様の飯取ったらあかん」
周りの空気を引き締めるような凛とした声が響く。
「北さん!?ちゃいますよ!いくら俺でも人の飯取ったりしませんて!」
慌てて振り返る。
”北さん”と呼ばれた男性が軽く頭を下げた。
「あ、あの、違います!”迷子なの?”って心配してくれてたんです」
私のせいで怒られてしまったのが申し訳なくて、最初に話しかけてくれた治さんに急いで謝る。
「あ、いや、気にせんでええよ」
そう言って首を振った。
「え、迷子なん?」
北さんがまるで小さい子に話しかけるみたいに軽く屈んだ