第66章 進化①
体育館に足を踏み入れれば、田中先輩とスガ先輩の姿が見えた。
「(田中先輩、散髪したてなのかな?)」
オリジナルソングを口ずさみながら、まるで楽器を演奏するかのように田中先輩の頭をスガ先輩がなぞっていく。
ジョリジョリってなんとも言えない音色を奏でた。
「散髪したてか?相変わらずいい音してんな~」
そう言った旭先輩が準備運動を始めた。
「みなちゃん、今日は練習試合があるからもう少ししたらイスの準備しよう」
「はい!」
今日は伊達工業さんがうちに来る日。到着までに試合の準備しておかないと。
もう一度スガ先輩たちのほうを見る
先ほどと変わらぬ光景が目の前で繰り広げられていた
「(うん、今日もみんな元気そうだな)」
「はい、合宿のお土産」
影山くんがそう言ってバッグから何か取り出した。
「えっ!?これどうしたの?」
手渡されたのはぬいぐるみ。黒いこのフォルムは私の好きなキャラ?
「一ノ瀬が好きなやつだろ?合宿で一緒だった人がくれたんだ。”それヨンリオのキャラですか?”って聞いたらどうぞって。関西限定?のやつとからしい」
「えぇ!?うれし・・い・・」
まじまじと眺めていたらなんだか違和感。あれ?こういう顔してたかな?
背中のほうに付いていたタグを見れば知らない名前が書いてある。
「(・・・もしかして影山くんからかわれた?)」
黙ってしまった私を見て不思議そうな顔をする。
「?? どうした?」
「これくれた人”ヨンリオのぬいぐるみ”って言ったの?」
「いや。”ヨンリオ好きならあげるよ”って」
「うんと・・・これはヨンリオのキャラじゃないみたい」
「へっ?」
タグに書かれた名前を影山くんに見せる。
「渡す時に妙に楽しそうに笑ってたの・・・あの人・・そういうことか」
思い出したのか影山くんの顔がイラついてる。
でも向こうで他の代表メンバーとも仲良く出来てた証なんだろうな、と思ったらこのキャラも可愛く見えてきた・・・気がする。
手におにぎり持ってるし。食いしん坊なのかな?
「この子も可愛いし、せっかくだから貰っていい?大切にするね」
「なんか・・・悪かったな」
バツが悪そうに頭を掻いた。
「こっちは部活どうだった?」
「みんな色々練習しててすごかったんだよ!」
「そうか。楽しみだな」
ユース合宿から帰ってきた影山くんはなんだか少し雰囲気が変わった気がした。
