第63章 雷雨
日向side
「(今日もボール拾いしかさせてもらえなかった・・・)」
”影山というセッターの居ないお前に俺は価値を感じない”
正面からハッキリそう言われた。
「(悔しい。クソッ!)」
ハンドルを握る手にギュッと力が入る。
「(自分が一番分かってる。おれ一人じゃまだ戦えないってこと)」
部活の練習を投げ出して、烏養コーチと武田先生に怒られて・・・みんなに迷惑かけてこっちに来てるのに。
”球拾いナメンなよ?”
コーチに言われた。別になめてるつもりはないけど・・・
でもこれだけで毎日が終わっていく事に焦りが出る。
もっと出来るように色々練習しなきゃなのに!
「(影山はユースに選ばれて、月島は宮城選抜に選ばれた。それなのに・・・)」
”お前は何をやっている?”
急ブレーキをかけ自転車を止め、ポケットから携帯を取り出した。
何度か呼び出し音が鳴ったあと声が聞こえてくる。
「もしもし?」
「(あ・・・どうしよ。出ると思わなかったから・・えっと・・)」
無意識に一ノ瀬に電話かけてた。
話すこと何も考えてなかったから焦る。
「日向くん?」
自分を呼ぶ声。心地良い、ホッとさせてくれる声。
「急にごめんっ!!いま練習終わって帰ってるとこで!」
見えてるわけじゃないのに頭を下げた。
「お疲れ様!私もさっき部活終わって帰ってるとこだよ。一緒だね!」
「そっちもお疲れ様。部活どう?」
「山口くんのジャンプフローターの成功率がすごい上がってきてる!でも木下先輩もすごいの!
休憩時間にはね、私が旭先輩にトス上げてみたんだけど綺麗にスパイク打ってくれたんだよ!セッターってあんな感じなんだね!」
弾むような声で今日の部活の様子を教えてくれる。
「そっかぁ。みんなスゲーな」
「うん!日向くんたちに刺激受けて、みんな練習にものすごく力入ってるよ。あとね・・・」
おれは何やってんだろう。
自分から話題を振ったくせに”そっちはどう?”って聞かれるのが怖くなった。・・・でも、一ノ瀬からその言葉は出てこない。
「聞かないの?」
「ん?」
「そっちはどう?・・・って」
結局自分から言ってる。何してんだよおれ?
引くくらい情けない声になっちゃってるし。
「自分から言わないって事は今はあんまり喋りたくないのかな~って」
気遣いがありがたくて思わず泣きそうになった。
