第58章 東京前線② 【最後のピース】
「冴子さん!朝ですよー!」
昨日夜遅くまで滝ノ上さんと飲んでいた冴子さんに声をかける。
う”ぅ”~っと苦しそうな声を出してなんとか体を起こした。二日酔いは大丈夫だろうか?
「急いで準備するね・・・」
テーブルの上に化粧道具を投げ出すと器用に塗っていく。
「(わぁーっ!)」
バサバサのまつ毛も長いアイラインもカッコいい
大人の女性!って感じだ。
「そんなに見られると恥ずかしいよ」
ニヒヒっと大きく笑った。
「興味ある?」
体を前のめりにしてコクコクとうなずく。
「じゃあちょっとやってみよ?」
こっちおいで、と手招きされた。
「(やり過ぎたら龍たちに怒られそうだ)」
ふむ・・と一ノ瀬の顔を見て考え込む。
「一ノ瀬ちゃんはそのままでも可愛いから・・・ちょっとリップ塗るだけにして、髪の毛巻いてみるか!」
器用にヘアアイロンを動かす。
夏ごろからを伸ばしてる髪の毛の、肩についてた毛先が外側にくるんとカールした。
「いいじゃん!こういうのも似合うね!」
あとで龍たちに送ってやろ~と写真を撮られる。
1試合目、梟谷は井闥山(いたちやま)学院に敗れ2位通過。
次の試合に備え観客席でビデオを準備した。
いまはコート整備中で、試合を控えた両校は体育館の端でストレッチなどを行っている。
「(音駒も勝って春高に行けますように・・・)」
緊張でそわそわして落ち着かない。
「なぁ、音駒の子達こっちに手を振ってないか?」
滝ノ上さんに言われて見てみる。
確かにこっちに手を振っているように見える?
「振りかえしてみよ!」
冴子さんと手を振り返してみる。
すると黒尾さんが入り口のドアを何度も指さした。
「一ノ瀬ちゃんのこと呼んでるんじゃないか?」
「!? 行ってきます!」
階段を降りると見覚えのある顔
”ほらぁー!やっぱり!”と犬岡くんと芝山くんが待っていた。
「犬岡凄いな!よく見つけたな!!」
「2階席に似た子がいるなーって思ったんだよ!」
笑顔で近くまで行くと二人が顔を赤くする
「な、なんか一ノ瀬ちゃん、いつもと雰囲気違うね?」
「うん。なんか・・その・・か、かわ」
途中まで口にした言葉を芝山くんが飲み込む。
二人がモゴモゴしてる。どうしたんだろう?