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約束の景色

第56章 調理実習


部屋いっぱいに広がる甘い香り
私の前にはいびつな形の焦げたクッキー

「(材料だって、道具だって、手順だって同じなのに!なんで出来上がりにここまで差が!?)」
「あ、味は一緒だよ!味見したら美味しかった!」
「そうだよ!美味しかった!個性的で可愛い形してる!」
はなちゃんたちの励ましが悲しい。
合宿中のおにぎりすらまともに作れないのに困って、家庭科の授業を選択した。こっちも上達まで時間がかかりそうだ・・・
「ほら、上手になるためにこの授業取ったんだし。いっぱい練習しよう?」

昼休み、美味しそうな香りにつられて山口くんと月島くんがやって来た
「いいにおいするね」
「授業でお菓子作ってきたんだ」
話を振られないよう、必死に気配を消す
「食べる?」
「へぇ、美味しそう」
「本当だ!二人とも上手だね」
この流れはまずい
「一ノ瀬は・・・」
月島くんがそう言いかけたのを合図に勢いよく立ち上がる
「あっ!武田先生に呼ばれてたの忘れてた!」

やってきたのは体育館入口
「はぁ・・・見つからなくてよかった」
自分のお菓子のひどさは自分が一番分かってる。
確かに味は大丈夫だったしあとで潔子先輩と一緒に食べよう。
どうせなら可愛いの作ってビックリさせたかったなぁ

「あれ?珍しいところで会ったな。どうした?」
声が聞こえてきた方を見れば大地先輩と旭先輩の姿
「お疲れ様です!えっと、お昼の散歩に?」
「食後の運動?放課後イヤってほど動けるのに?」
一ノ瀬は元気だな、って二人が笑う
「・・・何かあったか?」
「えっ!?」
「確かに、ちょっと元気なさそうだ」
そう言って二人も階段に座った。

「言いたくないなら無理にとは言わないけど」
大地先輩の声が優しい・・・
誤魔化してもすぐバレそうだし、二人ならきっと笑わないで聞いてくれる・・・と思う。
「あっ、あの・・・!」
意を決して二人を見た。
「「ん?」」


「さっき・・・家庭科の授業があって・・・。お菓子作りだったんですが・・」
「あぁ!甘いニオイしてたのはそれか!」
「調理室のほうからしてたな」
「その、作ったお菓子が美味しそうに見えなくて。恥ずかしくて・・・」
顔を赤くしてうつむく後輩を見て緊張する。
なんだかドキドキしてきた
「そんなにひどいのか?」
泣きそうな顔でコクンとうなずく
「「(なんだこの感覚は!?)」」
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