【呪術廻戦】あなたに殺された私は呪術師として生まれ変わる
第12章 ある夏の日の情景(外伝・夏油傑視点)
気を失っているをもう一度そこに寝かせてから、片手で印を結んで詠唱する。
「“闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え”」
打ち上げ花火が上がる夜空を、深い闇が遮ってゆく。
超越した速さを持つこの呪霊を逃さないよう、この周辺だけに限定して呪霊を閉じ込める帳を下ろした。
そして、手持ちの呪霊の中でも最速である虹龍を出して、戦闘態勢に入る。
を攫ったこの呪霊を、自分の中に取り込む気はない。
手加減せずに、祓い去るのみだ。
呪霊を祓い終わり帳が解除されると、すでに打ち上げ花火は終わっていて、辺りは静まり返っていた。
「…傑?」
私を呼ぶの微かな声が聞こえた。
振り返ると目を覚ましたが上体を起こそうとしていた。
すぐに駆け寄って、ふらつくの体に腕をまわして支える。
「、無理しないで。寝てていいんだよ」
「私…また取り憑かれたの?」
はまだ意識がはっきりしていない様子で、うわ言のように私に問いかけた。
「私が祓ったから、もう大丈夫だよ」
「傑、怪我なかった…?」
は朦朧としながらも、私の安否を確認するために、今にも落ちそうな意識を必死に保とうとしているようだった。
どんなに自分がつらい目に遭っても、この姉はいつもこうして私の心配ばかりするのだ。
「私は何ともないよ」
「よかった…いつも、ごめんね…」
よく呪霊に取り憑かれていた幼い頃に比べれば、取り憑かれる頻度は年々減っていて、が高校に上がってからは一度もなかった。
子どもの頃には視えていたのが、大人になるにつれて視えなくなったというのは世間的にもよくある話で、呪霊に取り憑かれやすい体質もそういうものかもしれないと私も自身も期待していたのだが。
今回、多くの人間がいる中でが標的となった。
その事実が、にとっては重くのしかかってしまったのだろう。