【呪術廻戦】あなたに殺された私は呪術師として生まれ変わる
第12章 ある夏の日の情景(外伝・夏油傑視点)
「…?」
辺りを見回してもの姿はなく、周囲は相変わらず賑わいでいる。
が消えたその一瞬、鳥居で感じたのと同じ呪力を感じた気がした。
…やられた!!
直感的に呪霊の仕業だと確信した。
この群衆の中では何もしてこないだろうと油断していた。
まさか、が狙われるなんて。
人々が行き交う道の往来で、私は立ち止まったまま考えを巡らせた。
焦るな。
人を一瞬にして消せるような強い呪霊じゃない。
おそらく連れて行かれたんだ。
私の目にも留まらなかったほどの超越した速さだが、発生場所から離れることはないだろう。
この神社のどこかにいるはずだ。
がいた場所には呪霊の残穢がくっきりと残っている。
この残穢を辿れば、を攫った呪霊のもとに行き着くはずだ。
打ち上げ花火の音が鳴り響く中、残穢を見失わないように人混みを掻き分けて、履き慣れない下駄で音を立てながら駆け抜ける。
、無事でいてくれ。
残穢を追って辿り着いた先は、境内の中でも草木が生い茂るひとけのない場所だった。
そこには小さな祠があり、その手前にまるで供物を供えるかのように、が仰向けで寝かされていた。
その光景に私は背筋が凍り、すぐさまに駆け寄って抱き起こした。
「!…!」
声をかけても目を覚ます様子はないが、呼吸はしていて、外傷も見当たらない。
おそらく呪霊の呪力に当てられて、気を失ってしまったのだろう。
が生きていたことにほっとしたのも束の間、背後から呪力の気配を感じた。
振り返ると、狐の姿に似た呪霊がそこに立っていた。
古来より稲荷神社で狐といえば神の使いと呼ばれるが、この呪霊は眷属の類ではなく、人を瞬時に連れ去るその能力を考えると神隠しのような伝承などから生まれた仮想怨霊だと思われる。
呪霊はじっと私達を見ているが、攻撃を仕掛けてくる様子はない。
の他に連れ去られてきた被害者はいないようだが、このまま放っておけば、この呪霊は再び人を攫うだろう。