【呪術廻戦】あなたに殺された私は呪術師として生まれ変わる
第1章 ①
気持ちを整理するのに私は一晩の時間をもらった。
部屋でひとりきりになって静寂の中、私の弟…傑のことを思う。
傑が自分勝手な理由で人を殺めるはずがない。
その集落全体に到底許容できない問題があったのだろう。
両親とも真面目な人達だったから、傑が百人以上を殺めたなんて知ったら自分達の息子が犯した罪への罪悪感のあまり正気ではいられなかったかもしれない。
手にかけられたという私はその時に痛みを感じた記憶はない。
きっと両親も痛みを感じることなく、そしてこの状況を何も知らずに逝ったのだろう。
犯罪者の家族として生き地獄を味わうより、その方がマシだと傑なら判断したかもしれない。
それもきっと傑の優しさだ。
自分の両親と私自身さえも手にかけられたというのに考えてる中でどうしても傑を庇ってしまう。
だって傑は本当に優しい子で、私の大好きな弟だった。
幼い頃、私に取り憑いた悪いものを勇敢にも傑は引き剥がして、行き場のないそれを躊躇しながらも飲み込んでいた。
心配する私に幼い割に大人びていた傑は「こんなのが苦しむのに比べたら全然平気だよ」と笑ってくれた。
経験するにつれて躊躇することもなく飲み込むことが当たり前になっていったようだが、本当に平気だったのだろうか。
本当はずっと苦しかったのではないか。
傑が世界から消してしまいたいほどに憎い非術師。
それは傑の身近にいる者でいえば、私のことだった。
傑を苦しめていたのは、ただ守られてるだけの私だったのでは。
「…ごめん、傑…」
ごめんね…
「呪術師になりたいです」
翌朝、再び私の元を訪れた夜蛾先生にそう言ってお願いをした。
できることなら傑にもう一度会いたい。
私は今までただ守ってもらっているだけで、ひとりで苦しんでいた傑を守ってあげられなかったことを謝りたい。
でも非術師のままの私では、家族だけ特別というわけにはいかないと言った傑にまた殺されるかもしれない。
優しい傑にもう家族を手にかけさせたくない。
傑、あなたに殺された私は呪術師として生まれ変わるよ。