【呪術廻戦】あなたに殺された私は呪術師として生まれ変わる
第6章 ⑥
『悟、この話を聞いた今どう判断するかはお前に任せる』
そう託されて学長室をあとにした僕はとにかくと話がしたくて連絡をとろうと思ったのだが、彼女に今回の件を本当に話すべきか躊躇していた。
僕は今回の百鬼夜行で傑を処刑する。
たとえそれを知ったに弟を殺さないでくれと懇願されたとしても、その覚悟を変えるつもりはない。
それならば、いまさら話したとして彼女のために僕は一体何をしてやれるのか。
…いや、もう傑を殺すことでしか止める手段のない僕は、彼女のためなんてカッコつけたことを言えるような立場にはない。
自室の前まで来たところで、ふと学生時代のある光景を思い出す。
高専の制服を着た少女、と初めて出会ったのはこの場所だった。
今思えば、僕が自室を出た時に彼女がいたのは…すぐ隣の傑の部屋の前だった。
かつて傑がそこにいたことを知っていたわけではないのだろうに、無意識に引き寄せられてきたのか。
立ち尽くしていたを何も知らない僕は迷子だと揶揄ったけど、彼女はもうここにはいない弟の面影を追い求めてきたのかもしれない。
上層部からの圧力で傑の姉であることを許されないが、今でも弟のことを思っていたとしたら…
が事実を知った上でどうするのか、それを選択する権利は上層部にも学長にもましてや僕にもなく、彼女自身にあるはずだ。
何も知らないまま何もできないまま、いつのまにかすべてが終わっていたなんて…もうそんな後悔は繰り返したくはない。
自室に入って静かにドアを閉め、スマホをいつもより強く握り締めてからに電話をかけた。
片耳に押し当てたスマホから鼓膜に響き渡るコール音がやけに長く感じる。
そのせいか5コール目で呼び出し音が途切れた直後に「…はい、もしもし?」と急に聞こえてた彼女の声に思わず息が詰まった。
「…?」
自分でも驚くほど遠慮がちな声で呼びかけてしまったことに内心焦ったが、も僕の様子がいつもと違うのに気づいたのか「はい…どうしたんですか?」と優しく問いかけてくれた。
の弟を殺す僕に彼女は今後この優しさを向けてくれないかもしれない。
それでも彼女に話さなければならないのだと僕はもう一度覚悟した。