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【呪術廻戦】幾重の夏に

第1章 初めての夏


良い天気だ。刺すような日差しが痛い程に。

「ずいぶんと楽しそうだね」

台所でお子様がふたり、それはもう愉快な笑い声をあげて、昼食作りに勤しんでいる。まるで笑い袋だ。

「良い天気だから、庭で食べようと思って」

目を瞑っても見えそうな眩しい笑顔で、雅はおにぎりを量産している。小さな手のひらで、器用にも正確な正三角形を、二十個以上並べていた。一体、何人分の昼食だろうか。その隣では、飛び跳ねんばかりの勢いで、棘が次に入れて欲しい具を叫んでいる。さながら、おにぎり工場だ。

「こんぶ!こんぶ!」

「ふふっ楽しいね、おにぎり」

おや、と悟は口元に手を当てる。その「こんぶ!」もしかして。

「ねえ雅、僕おかか食べたいな」

「おかか!」

おかかを所望しながら、やっぱりねと口角を上げる悟とは対照的に、雅は眉根を寄せる。おかかは嫌いと言いながら、彼女は鰹節を取り出した。「素直じゃないね」と茶々を入れつつ、棘の呪力を見守る。

「おかかは嫌いだけど、特別にチーズおかかにします」

「「チーズおかか」」

思わぬ発想に、悟は棘とふたり、声を合わせて雅の手元を見た。冷蔵庫から取り出したチーズをサイコロ状に切り、鰹節と醤油を混ぜ合わせる。それだけで、米に乗せて食べたい衝動に駆られる香りが漂う。空腹時に見るものではない。
悟の腹の虫が、限界だと音を上げた。部屋に鳴り響く空腹の音に、棘は悟の腹を摩る。

「棘は何の具が好きなの?」

優しい奴だねと、悟は棘の頭を撫でた。一呼吸の間に元気な「ツナマヨ!」が返ってきたので、おにぎりの大群からツナマヨを抜き出し、棘の口に押し付ける。

「これで共犯だ」

そう言うと、悟はおにぎりをふたつ握りしめ、脱兎の如く逃げ出だした。雅の慌てる声を背負いながら、おにぎりを噛み締める。
今日は良い拾い物をした。
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