第2章 何度も夏を繰り返し
悪戯心というのが、こんなにも快感で、厄介なものだとは知らなかった。棘が雅に抱きつくと、彼女は顔を真っ赤にして驚く。頬にキスすると、わなわなと震えて目を逸らす。あまりの可愛らしさに、堪らなくなって、何度も繰り返してしまうのだ。咎める雅の声も、煽っているのでは、と思うことすらある。
「ツナ、ツナマヨ」
楽しくなって、棘は囁いた。雅は、棘のどんな言葉も理解する。溢れ出てくる愛の囁きは正確に伝わっているようで、彼女は棘の口に手を添えて、言葉を封じようとした。
「棘、ちょっと、待って」
耳まで真っ赤に染めて俯く雅の目には、薄ら涙まで浮かんでいる。「おかか」と否定し、呪言を制する指先を絡め取って、その目尻に口付けた。
「お願い…」
いつまで経っても慣れてくれない。抱きしめた彼女の全身が、ドキドキと高鳴っている。お願いされては仕方ないと、棘は、ほんの少し、手を緩めた。「あのね」と話し始める雅の、潤んだ瞳が綺麗だ。
「棘、好きだよ」
思いがけない言葉に、棘の口はあんぐりと開く。
とんでもない威力だった。まるで呪言を浴びたように、胸が苦しくなる。
「ずっと一緒にいたい。だから、私たちは、強くならなきゃいけない。五条にも、狗巻にも縛られないくらい」
雅の手が、棘の頬を包む。
今はまだ、家に従うしかない。悟に保護されただけの、ただの子どもだ。ふたりが一緒に生きていくためには、家を覆すだけの力がいる。悟のように、心を貫く強さが。
「強くなろうね」
返事の代わりに、棘は、雅の唇を優しく噛んだ。