第3章 それは悲喜交々とした恋の歌
「……私なんかが、こんなにも幸せを感じてしまって、良いのでしょうか。本当に夢のようで、信じられません。だって、主様が……その、私だけを見てくださっているだなんて。考えただけでも、どうにかなってしまいそうなので御座います。」
「べリアンが、私を思ってそんな風になってくれるなんて、それこそ嬉しくってどうにかなっちゃいそうだよ。」
苦しいくらいの幸せに包まれながら彼を見れば、酷く甘ったるくて、見ているこっちが恥ずかしくなってしまいそうな顔をしたべリアンが私を見ていた。
「そんな可愛らしいことを言ってくださるだなんて……主様、聞こえますか。私の心臓は、こんなにも主様を感じて高鳴っているのです。」
手を取り、べリアンは己の胸元に私の手をぎゅっと押し当てた。
先程からも感じていた筈のべリアンの鼓動は、直接その手に触れると信じられないくらいにドキドキと波打っていた。それがまるで私自身にも伝染するかのように伝わって、ただでさえ激しく騒いでいたこの心臓が、私の息を苦しめるくらいに尚も激しく波打った。
真っ直ぐに私を見詰める紅紫色が、穏やかに、けれども確かな熱を帯びていく。
「ずっと、願っておりました。叶わぬ夢だと、そうこの心に閉じ込めて参りました。ですが、申し訳ありません、主様……私はもう、この想いを我慢出来そうにありません。」
縮まる距離に、どうしようもなく苦しくなって、堪らずに目を瞑る。さらりと彼の髪が私の頬に落ちた。
鼻先が一瞬触れ合い、本当に、本当にすぐそばで彼の吐息を感じるのに、それ以上動かない彼に薄目を開く。
あまりにも近く、彼の香りに包まれているこの状況で、視線なんて交わっていない筈なのに、私は確かに狂おしいくらいの愛に耐える彼を見た。
かする鼻先、触れそうになる唇。それ以上の行為に、互いに一瞬躊躇うような素振りを見せたが、すぐにそれは深く重なった。