第2章 それは請い願った帰り花
ワン、ツー、スリー。
ベリアンが小声でリズムを取ってくれる。それに合わせるかのように、とくん、とくんと胸の高鳴りが早くなっていく。
ちら、とベリアンを見たら、その視線がかち合った。
美しき紅紫色。それがまるで今この瞬間が単なるレッスン中なのだとは思えない程に、嬉々として細められていた。まっすぐに、私を見て離さない。その男の動作は手本としてこれ以上完璧なものがあるかと言う程に美しいものであったが、視線だけは一瞬足りともこの時間を無駄にはさせまいと、その喜びに満ちた瞳を私に向けるのだ。
流石に見過ぎだと、そう言ってしまいたかったが、そのあまりにも嬉しそうな表情に何も言えず、私は視線を逸らすしかできなかった。
気が付けば、酷く顔が熱い。
クスリと、小さな笑い声が頭上で聞こえた。
「お上手ですよ、主様。久し振りに踊ったとは思えない程です。」
「……ベリアンの合わせ方が上手いんだよ。」
そう、本当に。
こうして久々に踊ったというのに、お互いのタイミングを合わせる事すら必要の無いくらい。やはり、私に歩調を合わせるのが彼は誰よりも上手い。
ずっと担当執事として隣にいたのだから、当たり前と言ってはそうなのだろうが、やはりこうして久々に彼を感じると身に染みた。
「やっぱり、ベリアンの隣は落ち着くね。」
「……え?」
一曲踊りきろうかという頃、思わずそう口にしていた。
私の背に回る、ベリアンの腕に力がこもったのを感じては、不意に出た言葉の意味をこの時私自身が初めて意識した。