第2章 それは請い願った帰り花
「ねぇ、ルカス……ベリアンは、本当は担当が外れても、何とも思っていないとか、そういう事ってあるかな?」
自分でも突然何を言い出すのかと思ったが、ふと感じてしまった事にどうしても意識が持っていかれ気が付いたら口をついて出ていた。
当然、驚いた様子のルカスが私を見た。
「……主様は、寂しいんですか?」
思わず、ハッとした。まさか。だって、私からベリアンを担当から外させたのだから。
そんな事を思っていいのだろうかと、そう戸惑う気持ちを押しのけたのは、ついこの前久々に聞いた、私に向けられた労いの言葉と優しい笑顔。それに驚くほどの安心感を感じたあの瞬間の胸の高鳴りであった。
「あ、えっ…寂しいというか、えっと……」
情けないことに、まともな言い訳の一つすら出てはこない。私はどもりながらも、ちらと窺うように目の前のルカスの表情を確認した。
また、呆れたように笑われてしまうのだろうかと、ほんの少しの羞恥にドキドキすると、そこ見たのは、何とも寂しげに、そしてどこか不器用に笑って見せるルカスの姿であった。
「主様は、やはりベリアンを一番に信頼しているのですね。」
「いや、……」
否定する理由など、どこを探しても今の私には存在していない。けれどこの目の前の彼の表情に、何故かそう言わないとならないような気にさせられた。
「大丈夫ですよ、主様。べリアンが主様の担当を外れて何とも思っていない筈がありません。何ともない素振りを見せているだけだろうと、私は思っているんです。」
にこりと、目を細めて笑うその表情はいつもこんな感じだっただろうか。
気が付いたら、手を取られて、少し近くなったその距離で、やはりルカスは笑っていた。
「素直になって良いのですよ。主様も、……勿論、ベリアンもです。私はどんな形であれ、あるじ様が心から笑って過ごせる時をこの屋敷でご用意致します。私にお任せくださいね、主様。」
何時からだろうか。この時折悪戯に笑って見せる瞳の奥に光る、視線の鋭さに気が付かないフリをし始めてしまったのは。
その時丁度、まるで見計らったかのように開いた扉に、私の言葉は遮られてしまった。