第1章 夜が明けるまでの恋人 / 御影 ★
「この様子じゃあ、夜明けまであと1,2時間ってとこか…?」
時計を探すのが面倒で、今までの経験から憶測する。
…いや、夜が明けるまでの正確な時間を、知りたくないだけだ。
”夜が明けるまでは恋人”
一分でも、一秒でも、恋人でいる時間が長くありますように。
そんな想いが時計の針が進む音を聞く度に強くなっていて。
「…このまま、時が止まっちまえばいいのにな…」
らしくない事を呟いて、抱き締める力を強めた。
「…りと、好きだ…。どうかこのまま…
………俺だけのりとでいてくれ」
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「ん…」
暖かい。
凄く…凄く幸せを感じている。
御影が抱き締めてくれて、それから…
何か、言っている。
何で聞こえないんだろう?
もう一度言って欲しくて、御影に声を掛ける。
御影…、御影…?
「御影っ…!!」
そこで目が覚めて、ガバッと起き上がる。
夜はもうすっかりと明けていて、眩しい日の光が部屋を明るく照らしていた。
そしてもう
御影の姿は無かった。
綺麗に畳まれた布団。
綺麗に片付けられた机。
まるでここにいたのが噓のように、痕跡の一切を消したようで。
御影の気配は部屋から完全に消えていた。
「…そっか。行っちゃったんだね…」
溢れる涙を拭いもせず、ただ、静かに泣いていると
ふと、鏡に映る自分の首元に赤い跡が見えた。
何も痕跡を残さない彼が唯一残していったものだと思うと
すごく嬉しくて、愛おしくて。
私はその跡を手でなぞりながら、また静かに涙をながしたのだった。