第1章 紫の陽だまりを見た日
「はい、これで動くと思います」
私は、ドズル社に働くエンジニアの一人だ。たった今、ドズル社専用に発明した機材を、隣にいるぼんじゅうるさんのパソコンに取り付けたところである。
「へぇ……ここで描いたものがゲームに反映されるのね?」
とぼんじゅうる、ことぼんさんが確認をする。私は頷いた。
「はい。まだ開発中なので、不具合も多いかもしれませんが……」
と私が言えば、大丈夫でしょ、優秀なスタッフさんだから、とぼんさんがにこりと笑む。私はここのエンジニアをしてまだ一、二年程度なのだが、ぼんさんは四十代と思えない程幼く笑うな、というのが印象である。
実は、このドズル社に入るまでドズル社のドの字も知らなかったなんて秘密なのだが。
「今度の企画にお試しという意味も込めて使うみたいです。ただ、何かありましたらすぐに来ます」
私はぼんさんのエンジニア担当でもあったから。
「ありがとね。でも、何も用がなくても遊びに来てもいいのよ?」
とぼんさんは冗談っぽく笑いながらそう言った。ぼんさんはいつも面白いことを言うので、私はつい笑ってしまう。
「ふふ、彼氏がいるのでそんなこと出来ないですよ〜」
それ、浮気になりますから、と付け足して。
「そっかそっか」
彼氏大事にしてるもんなぁ、とぼんさんは笑みを含んだまま頭をさすった。どうやら彼は、女性スタッフにはみんな言っているらしい。もっとも、女性スタッフは少ないので、詳しくは知らないのだが。
「それじゃあ、これから彼氏とのデートがあるので帰りますね」
「は〜い」
私はぼんさんの家の玄関に立ち、ぺこりと頭を下げる。ぼんさんはわざわざ玄関まで見送りに来てくれて、長い腕と大きな手を振ってくれる彼をあとに、私は外へ出た。