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【シリアス百合】卒業は死神【完結済み】

第9章 シーン6


 玄関に座りっぱなしで何してんの、風邪ひいちゃうから部屋に戻りなさい、という母親の声がして、私はやっと呆然とした状態から我に帰る事ができた。だが、それと同時に死んだはずの美和からの手紙の存在が私の心を乱していく。

 心臓がどくどくと鳴っている。もしかしたらこの手紙はとんでもないものではないのかという予感がしたからだ。薄い桜色の封筒。美和の字で書かれた私の住所と差出人。これはきっと誰にも見せてはいけないものなのだろうと直感で思い、急いで自分の部屋に戻り、部屋の鍵を閉めた。

 今日配達された手紙を受け取ったのが私でよかった。母親が受け取ったのなら家の中で事件になっていただろう。手紙を開封するのは気が重かった、が、手紙を見ない事にはどうにもならない。ふと美和の薬指が入っている小瓶が目に入る。死んだというのにまだそこにいるようで、私は小瓶を机の中に仕舞った。そうしないと美和が一緒に手紙を見てるようで嫌だったからだ。手紙の封筒は赤いハート型のシールで封がされており、私は何を思ったのか赤いハート型のシールが破れないようにと丁寧に手紙を開封することにした。

 何が異常なのか私にはわからなくなっていた。美和が自殺した事は一般常識的に異常な事ではある。卒業式を前に女子高生が自殺したという事件は全国ニュースにもなった。美和が自殺した理由は本当に何も無く、報道する側も事件の報道する方向性が見出せずに「将来を悲観して」やら「生きる気力が無い若者症候群」というような感じで美和の自殺の報道は2日間ぐらいで終わった。自殺する人は多い。だが学生が卒業式前に自殺する事は稀である。そういう意味で美和の自殺は異常だった。

 そして今、手に取っている手紙も異常だ。最初のページに目を通して、どうして死んだはずの美和から手紙が届いたのかはわかったけれど、それでも異常だった。自殺する事を仄めかす内容の手紙で、実際に美和は自殺したからだった。つまりこの手紙が美和のいう日時指定配達サービスで投函された時点で美和の自殺は決まっていたのだ。美和が生きていればたちの悪い冗談で済んだのだが、実際に自殺してしまった。計画的な自殺。頭が混乱していくのが自分でもわかった。

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